私たち翔栄ファームは
「自家採種100%を目指しています」
と言い続けていますので今回は種取り、
特に「自然栽培の種取り」について
お話をしてみたいと思います。
なぜならば恐らく農業に携わったことのない方々は、
“種ができたらただ取るだけ”くらいにしか
思っておられないのではないかと思ったからです。
いや、正直に言うと、先日、
恒例の自然栽培の先生の勉強会に参加して、
その日のお題がずばり「種取り」であったのです。
しかし種取りがそんなに簡単なものではない
ということは事実です。
そのあたりが上手くお伝えできればうれしいです。
■ 「種取り」は畑選びの段階から始まっている
一体何を言っているのでしょうか。
先生は開口一番このような話からスタートしました。
ポイントは「結果は“前”にあり」ということ。
つまり種が出来たから取るのでは遅い、
いや失敗であるというのです。
例を挙げてみます。
翔栄ファームは固定種・在来種の自然栽培を行っていますが、
自家採種した種を慣行農法の畑に播種したとすると、
残念ながら収穫結果は思わしくないものになります。
このような畑には大量の肥料が残っているはずなのになぜなのか?
もちろん固定種・在来種の自然栽培作物から自家採種した種と、
化学肥料がたっぷり残存する畑の
相性が悪いのはご想像の通りです。
しかし、最もまずいのは化学肥料を入れ続けた畑は
毒に塗れているということです。
これを土の中の肥毒といいます。
そして肥毒された土中の微生物の数は激減し、
その働きはとても弱いものになっていきます。
結果的にこのような土では作物の根の張りが弱くなります。
慣行農法ではこの微生物の働きがなくなった畑に、
更に化学肥料を多用して肥毒の度合いを
エンドレスに高めていくのです。
そして土は死んでいきます。
■ 自然栽培における自家採種の特徴
自然栽培の場合、自家採種を何年にもわたり
続けていくことで育ちがよくなっていきます。
環境に適応していくためです。先生が、
「人間だって見知らぬ土地に引っ越したばかりの時より
何年か経った方が馴染んでいるでしょ?」
と例えていましたが、作物が土中の養分を
しっかり吸えるようになるそうです。
しかし一朝一夕にというわけにはいかず、
5年から10年は必要だと仰っていました。
仮に肥毒した畑で育った作物の種を
健康な大地に播種した場合はどうなるかというと、
初めは栄養が足りないと種が感じるため
生育が悪くなることもありますが、
自家採種を繰り返すことで種の毒が消え、
同時に土の生命力が高まり作物の根は強くなっていきます。
■ 自然栽培における種取りの目的は何か
種取りの目的を三つ申し上げます。
一つ目はやはり「種から毒を抜くこと」です。
あるいはリセットすることです。
現代において完全にクリーンな種は少ないのです。
二つ目は「その土地の気候、風土に適応させる」ことです。
付け加えると「根付かせる、マッチングさせる」ことです。
固定種や在来種を想像していただけるとピンとくると思います。
伝統野菜などは自家採種の賜物ではないでしょうか。
三つ目は自然栽培の場合は
「連作障害が起きづらい」ということですが、
この理由がお分かりになりますか?
答えをいう前になぜ雑草は連作障害を起こさないのか、
想像してみてください。
そうです。雑草は抜かない限り
そこに種を落としてそこに生息し続けます。
農作物も同じです。
種類にもよりますが種を付けた作物の種は
放っておけばその場所に垂直に落ちます。
つまり耕耘する必要なく多年草のごとく
表土を損傷させることがないのです。
過去コラム「環境再生農業って何ですか?」にもありますが、
多年草による不耕起は環境再生型農業における
大きなポイントでもあるのです。
■ 自家採種の手間は種類によってマチマチ
さて、ここからは具体的な種取りについて、
少しだけ踏み込んでいきたいと思います。
一言で種取りといっても皆様ご想像の通り
農作物の種類によって難易度が違います。
ここでは代表的な作物名を記載しながら
3段階の分類を行っていきますが、
「簡単なものはない」ということだけは
先にお伝えしておきます。
先ず、“あまり難しくないもの”は
「ナス、きゅうり、ズッキーニなど」です。
特徴としては種取りの前に
熟成させる必要があるということです。
過去コラム「【農場便り】翔栄ファームは100%自家採種を目指します」に
きゅうりの種取りの手順がありますので
よろしかったらご参照ください。
ここからは結論だけをお伝えしていきます。
“比較的難しいもの”はアブラナ科に分類される
「大根、キャベツ、白菜」です。
いくつかの要因がありますが、
最大の理由は交雑しやすいということです。
そして“難しいもの”は「たまねぎ、ごぼう」です。
とにかく時間が掛かります。
種まきから起算すると1年半くらいです。
もしたまねぎの自家採種した種から無事に収穫できたとしたら
上級者の仲間入りをしたと思ってもいいのではないでしょうか。
■ 種取りのための環境づくりとタイミング
冒頭で種取りのポイントは
「結果は“前”にあり」ということをお伝えしました。
換言すれば、
種を取る時に考えたのではダメ、栽培する時から考える
ということです。
といっても漠然としているので、
最後に具体的な6つの注意点を
お伝えして今号を締めたいと思います。
1) 生育可能な温度であること(温度が適切でないと母体が元気にはなりません)
2) 受粉可能な温度、湿度であること(花粉は水分、温度の抵抗が弱い)
3) “とう立ち”など開花条件を満たしているもの(播種が遅れて小さいものからは種が取りづらい)
4) 適度な水分が土壌に保たれていること(種取りのための水やりが必要)
5) 大地にしっかりと根が張っていること(品質の良いものから採取するのが基本)
6) 作物ごとの適した日照時間があること(長日作物、短日作物がある ※)
※
長日作物とは冬至から夏至までの
日が長くなっていく期間に育つもの、
一方、短日作物は夏至から冬至までの
日が短くなっていく期間に育つもののことです。
一例としてほうれん草は代表的な長日作物です。
私たち翔栄ファームは「自家採種100%を目指しています」と言い続けていますので今回は種取り、特に「自然栽培の種取り」についてお話をしてみたいと思います。
なぜならば恐らく農業に携わったことのない方々は、“種ができたらただ取るだけ”くらいにしか思っておられないのではないかと思ったからです。いや、正直に言うと、先日、恒例の自然栽培の先生の勉強会に参加して、その日のお題がずばり「種取り」であったのです。しかし種取りがそんなに簡単なものではないということは事実です。そのあたりが上手くお伝えできればうれしいです。
■ 「種取り」は畑選びの段階から始まっている
一体何を言っているのでしょうか。先生は開口一番このような話からスタートしました。ポイントは「結果は“前”にあり」ということ。つまり種が出来たから取るのでは遅い、いや失敗であるというのです。
例を挙げてみます。翔栄ファームは固定種・在来種の自然栽培を行っていますが、自家採種した種を慣行農法の畑に播種したとすると、残念ながら収穫結果は思わしくないものになります。
このような畑には大量の肥料が残っているはずなのになぜなのか?
もちろん固定種・在来種の自然栽培作物から自家採種した種と、化学肥料がたっぷり残存する畑の相性が悪いのはご想像の通りです。
しかし、最もまずいのは化学肥料を入れ続けた畑は毒に塗れているということです。これを土の中の肥毒といいます。そして肥毒された土中の微生物の数は激減し、その働きはとても弱いものになっていきます。結果的にこのような土では作物の根の張りが弱くなります。
慣行農法ではこの微生物の働きがなくなった畑に、更に化学肥料を多用して肥毒の度合いをエンドレスに高めていくのです。そして土は死んでいきます。
■ 自然栽培における自家採種の特徴
自然栽培の場合、自家採種を何年にもわたり続けていくことで育ちがよくなっていきます。環境に適応していくためです。先生が、「人間だって見知らぬ土地に引っ越したばかりの時より何年か経った方が馴染んでいるでしょ?」と例えていましたが、作物が土中の養分をしっかり吸えるようになるそうです。
しかし一朝一夕にというわけにはいかず、5年から10年は必要だと仰っていました。仮に肥毒した畑で育った作物の種を健康な大地に播種した場合はどうなるかというと、初めは栄養が足りないと種が感じるため生育が悪くなることもありますが、自家採種を繰り返すことで種の毒が消え、同時に土の生命力が高まり作物の根は強くなっていきます。
■ 自然栽培における種取りの目的は何か
種取りの目的を三つ申し上げます。一つ目はやはり「種から毒を抜くこと」です。あるいはリセットすることです。現代において完全にクリーンな種は少ないのです。
二つ目は「その土地の気候、風土に適応させる」ことです。付け加えると「根付かせる、マッチングさせる」ことです。固定種や在来種を想像していただけるとピンとくると思います。伝統野菜などは自家採種の賜物ではないでしょうか。
三つ目は自然栽培の場合は「連作障害が起きづらい」ということですが、この理由がお分かりになりますか? 答えをいう前になぜ雑草は連作障害を起こさないのか、想像してみてください。
そうです。雑草は抜かない限りそこに種を落としてそこに生息し続けます。農作物も同じです。種類にもよりますが種を付けた作物の種は放っておけばその場所に垂直に落ちます。つまり耕耘する必要なく多年草のごとく表土を損傷させることがないのです。
過去コラム「環境再生農業って何ですか?」にもありますが、多年草による不耕起は環境再生型農業における大きなポイントでもあるのです。
■ 自家採種の手間は種類によってマチマチ
さて、ここからは具体的な種取りについて、少しだけ踏み込んでいきたいと思います。一言で種取りといっても皆様ご想像の通り農作物の種類によって難易度が違います。ここでは代表的な作物名を記載しながら3段階の分類を行っていきますが、「簡単なものはない」ということだけは先にお伝えしておきます。
先ず、“あまり難しくないもの”は「ナス、きゅうり、ズッキーニなど」です。特徴としては種取りの前に熟成させる必要があるということです。過去コラム「【農場便り】翔栄ファームは100%自家採種を目指します」にきゅうりの種取りの手順がありますのでよろしかったらご参照ください。
ここからは結論だけをお伝えしていきます。“比較的難しいもの”はアブラナ科に分類される「大根、キャベツ、白菜」です。いくつかの要因がありますが、最大の理由は交雑しやすいということです。そして“難しいもの”は「たまねぎ、ごぼう」です。とにかく時間が掛かります。種まきから起算すると1年半くらいです。もしたまねぎの自家採種した種から無事に収穫できたとしたら上級者の仲間入りをしたと思ってもいいのではないでしょうか。
■ 種取りのための環境づくりとタイミング
冒頭で種取りのポイントは「結果は“前”にあり」ということをお伝えしました。換言すれば、
種を取る時に考えたのではダメ、栽培する時から考える
ということです。といっても漠然としているので、最後に具体的な6つの注意点をお伝えして今号を締めたいと思います。
1) 生育可能な温度であること(温度が適切でないと母体が元気にはなりません)
2) 受粉可能な温度、湿度であること(花粉は水分、温度の抵抗が弱い)
3) “とう立ち”など開花条件を満たしているもの(播種が遅れて小さいものからは種が取りづらい)
4) 適度な水分が土壌に保たれていること(種取りのための水やりが必要)
5) 大地にしっかりと根が張っていること(品質の良いものから採取するのが基本)
6) 作物ごとの適した日照時間があること(長日作物、短日作物がある ※)
※ 長日作物とは冬至から夏至までの日が長くなっていく期間に育つもの、一方、短日作物は夏至から冬至までの日が短くなっていく期間に育つもののことです。一例としてほうれん草は代表的な長日作物です。
参考:
鈴木宣弘 著「農業消滅」(平凡新書)
[三橋TV第471回]遺伝子組み換え・ゲノム編集という脅威から「我々の食」を護るために