2021年10月31日~11月13日まで
イギリスのグラスゴーで
国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が
開催されたのは周知のことです。
ただ私だけでしょうか?
このままだと地球が滅びてしまうから
世界中が協力し合って
「カーボンニュートラルを実現しようよ!」
というもの凄いエネルギーの渦の中に
どうも日本はいないような気がしてなりませんでした。
確かにこの期間には衆議院選挙の投開票が行われたり
組閣が行われたりする等、
国内の大イベントがあったことは事実です。
しかし選挙期間中に気候変動対策についての話が
ほとんど聞こえてこなかったことは残念です。
■ 中心はミレニアム世代とZ世代
因みに欧米とその文化に近しい国々においては、
あらゆる生活の局面において気候変動対策が
最も注目を浴びるトピックとなっているようで、
この動きの中心的役割を担っているのは
ミレニアム世代やZ世代、
つまり次代を牽引する若者が
気候変動をも次なるイノベーションにつなげるべく、
あくなきパワーを生み出しているようです。
■ あらためてカーボンニュートラルとは?
今、世界が向かっている
気候変動対策のコンセンサスは非常にシンプルです。
2030年の平均気温上昇を産業革命前のそれと比べて
1.5℃以下に抑えるということです。
そしてそれを実現するためには
2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする。
これがカーボンニュートラルです。
そしてこのカーボンニュートラルは
温室効果ガスの排出量を植物などによる吸収と
相殺して実質ゼロにすることです。
■ 温室効果ガス排出量のうち、農業が占める割合
2021年11月9日付の
英フィナンシャル・タイムズ電子版で
世界の農業・食料生産分野の
温暖化ガス排出量に関する記事を目にしました。
要旨は、国連発表のデータを基に、
気候変動を抑制するうえで
同分野の対策は非常に重要であるとし、
食料システムは地球温暖化を助長しており、
特に問題視されているのが農地への転用に伴う森林破壊と、
畜産業によって排出されるメタンガスであるというものでした。
同紙が根拠とするCOP26で
国連食糧農業機関(FAO)が発表したデータによると、
農業・食料生産分野が2019年に排出した温暖化ガスは
総排出量の31%を占め、二酸化炭素(CO2)換算で
165億トンに上ったということです。
因みに電力生成のためのCO2排出量は27%といわれています。
■ 森林伐採が温室効果ガスを排出する?
さて、既知の方は以下の文章は
読み飛ばしていただきたいのですが、
森林伐採そのものが温室効果ガスを
排出することをご存知でしょうか?
森林は光合成により光エネルギーを使って
二酸化炭素と水を糖質(炭素)と酸素に変換します。
つまり二酸化炭素を吸収する役割を担っています。
当然、炭素の放出とは真逆の働きです。
しかし樹木は一方で、
光合成によってつくりだした酸素と炭素のうち、
酸素は放出し、炭素を土中に取り込み
そして蓄えることで生長しているのです。
森林は温暖化の主な原因である
二酸化炭素を減らすだけではなく、
炭素を大気に放たず土中に固定する
という役割をも担っています。
そこで大規模な森林伐採が行われると
この土中に固定されていた炭素が
大気中に放出されてしまうのです。
植林から40年経った杉の人工林では、
1ha当たり約79tの炭素(二酸化炭素換算で約290t)を蓄え、
1年間に約8.8tを吸収すると推定されています。
■ 牛のゲップとおならをストップ!
今回のコラムのタイトルは「オーツミルクと気候変動」です。
にも関わらずいまだオーツミルクの話題に
辿り着けないことをお詫びしつつ、
もう一つだけ事前準備をさせていただきたいのです。
それが畜産による温室効果ガス排出量についてです。
世界の牛の数は10億頭とも15億頭ともいわれています。
(過去コラム「デイリーフリーと環境問題」)
この酪農用の牛から排出される温室効果ガス、
つまり「ゲップ」や「おなら」を通じて排出される
「メタン」が大きな問題になっているのです。
(具体量については語り手によって異なるため割愛しますが
地球全体に影響を及ぼすほどの
量になっているのは間違えありません)
このメタンが厄介な理由は、
メタンが持つ温室効果はCO2と比較して
比べ物にならないほど大きく、大気反応が早いため
短期の温暖化を引き起こすということです。
ただ別の見方をすれば
大気寿命が短いということでもあります。
つまりメタンの排出、すなわち酪農を縮小させれば
温暖化の抑止に即効性があるという発想につながるのです。
■ オーツミルクがもたらす環境変化
オーツミルクはいわずと知れた
「えん麦性ミルク」のことです。
いわゆる植物性ミルク(プラントベース)の一つです。
世界的なデイリーフリーの流れのもと、
アーモンドミルクや豆乳と並び、
環境負荷が非常に少ない植物性ミルクとして
世界的に脚光を浴びています。
スウェーデンのあるメーカーによると
オーツミルクは牛乳と比べて、
1ℓ当たりで温室効果ガス排出量を80%、
土地使用を79%、エネルギー消費を60%も
削減できるとされています。
また、植物性ミルクの中で最も
栽培に水を必要としないともいわれています。
■ オーツミルクの普及スピード
オーツミルクは日本のスーパーで購入することも可能です。
ただ今はそれほどメジャーというわけではないようです。
アメリカでは日本でも有名なコーヒーチェーンをはじめ
多くの屋号で普通にオーツミルクが販売されており、
レジでの会話は「オーツにしますか?それともソイですか?」
というのが普通だそうです。
確かに気候変動への影響という点では
植物性ミルクの台頭は大変好ましいといえます。
ただここで早合点してはいけないことがあります。
それは農薬、化学肥料による温室効果ガス、
特に亜酸化窒素ガスの排出と土中の微生物の消滅です。
世界中が植物性ミルクにすれば
結果的に牛のゲップとおならは激減します。
植物肉も100%になれば更に拍車が掛かります。
しかし現状の植物性ミルクは
イメージ程には環境改善に貢献しているかは“?”です。
例えがソイミルクを例にとると
原料の大豆はGMOである可能性は非常に高く、
栽培に大量の農薬、除草剤が使われているでしょう。
その結果、土中の微生物の死滅による大気中への炭素の放出、
あるいは農薬・化学肥料に含有する亜酸化窒素や、
その他の窒素化合物が地下水や河川へ流入する頃で起こる水質悪化。
また、アーモンド栽培には大量の水を必要とするため
実際は水不足に拍車を掛けているなど、
経済界によって演出されるイメージ作りが
実態を見えづらくしていることに注意しなくてはなりません。
もちろんオーツミルクも同様です。
原材料の「えん麦」がオーガニックかどうか?
そこをしっかりと見極めて上で、
売り手の思惑に飲み込まれないようしっかりと地に足を付けて
これからのムーブメントに備えていく必要があるのです。
2021年10月31日~11月13日までイギリスのグラスゴーで、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開催されたのは周知のことです。
ただ私だけでしょうか?
このままだと地球が滅びてしまうから世界中が協力し合って「カーボンニュートラルを実現しようよ!」というもの凄いエネルギーの渦の中に、どうも日本はいないような気がしてなりませんでした。
確かにこの期間には衆議院選挙の投開票が行われたり組閣が行われたりする等、国内の大イベントがあったことは事実です。しかし選挙期間中に気候変動対策についての話が、ほとんど聞こえてこなかったことは残念です。
■ 中心はミレニアム世代とZ世代
因みに欧米とその文化に近しい国々においては、あらゆる生活の局面において気候変動対策が最も注目を浴びるトピックとなっているようで、この動きの中心的役割を担っているのはミレニアム世代やZ世代、つまり次代を牽引する若者が気候変動をも次なるイノベーションにつなげるべく、あくなきパワーを生み出しているようです。
■ あらためてカーボンニュートラルとは?
今、世界が向かっている気候変動対策のコンセンサスは非常にシンプルです。2030年の平均気温上昇を産業革命前のそれと比べて1.5℃以下に抑えるということです。そしてそれを実現するためには2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする。これがカーボンニュートラルです。
そしてこのカーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量を植物などによる吸収と相殺して実質ゼロにすることです。
■ 温室効果ガス排出量のうち、農業が占める割合
2021年11月9日付の英フィナンシャル・タイムズ電子版で世界の農業・食料生産分野の温暖化ガス排出量に関する記事を目にしました。
要旨は、国連発表のデータを基に、気候変動を抑制するうえで同分野の対策は非常に重要であるとし、食料システムは地球温暖化を助長しており、特に問題視されているのが農地への転用に伴う森林破壊と、畜産業によって排出されるメタンガスであるというものでした。
同紙が根拠とするCOP26で国連食糧農業機関(FAO)が発表したデータによると、農業・食料生産分野が2019年に排出した温暖化ガスは総排出量の31%を占め、二酸化炭素(CO2)換算で165億トンに上ったということです。因みに電力生成のためのCO2排出量は27%といわれています。
■ 森林伐採が温室効果ガスを排出する?
さて、既知の方は以下の文章は読み飛ばしていただきたいのですが、森林伐採そのものが温室効果ガスを排出することをご存知でしょうか?
森林は光合成により光エネルギーを使って二酸化炭素と水を糖質(炭素)と酸素に変換します。つまり二酸化炭素を吸収する役割を担っています。当然、炭素の放出とは真逆の働きです。
しかし樹木は一方で、光合成によってつくりだした酸素と炭素のうち、酸素は放出し、炭素を土中に取り込みそして蓄えることで生長しているのです。森林は温暖化の主な原因である二酸化炭素を減らすだけではなく、炭素を大気に放たず土中に固定するという役割をも担っています。そこで大規模な森林伐採が行われるとこの土中に固定されていた炭素が大気中に放出されてしまうのです。
植林から40年経った杉の人工林では、1ha当たり約79tの炭素(二酸化炭素換算で約290t)を蓄え、1年間に約8.8tを吸収すると推定されています。
■ 牛のゲップとおならをストップ!
今回のコラムのタイトルは「オーツミルクと気候変動」です。にも関わらずいまだオーツミルクの話題に辿り着けないことをお詫びしつつ、もう一つだけ事前準備をさせていただきたいのです。それが畜産による温室効果ガス排出量についてです。
世界の牛の数は10億頭とも15億頭ともいわれています(過去コラム「デイリーフリーと環境問題」)。この酪農用の牛から排出される温室効果ガス、つまり「ゲップ」や「おなら」を通じて排出される「メタン」が大きな問題になっているのです。
(具体量については語り手によって異なるため割愛しますが地球全体に影響を及ぼすほどの量になっているのは間違えありません)
このメタンが厄介な理由は、メタンが持つ温室効果はCO2と比較して比べ物にならないほど大きく、大気反応が早いため短期の温暖化を引き起こすということです。
ただ別の見方をすれば大気寿命が短いということでもあります。つまりメタンの排出、すなわち酪農を縮小させれば温暖化の抑止に即効性があるという発想につながるのです。
■ オーツミルクがもたらす環境変化
オーツミルクはいわずと知れた「えん麦性ミルク」のことです。いわゆる植物性ミルク(プラントベース)の一つです。
世界的なデイリーフリーの流れのもと、アーモンドミルクや豆乳と並び、環境負荷が非常に少ない植物性ミルクとして世界的に脚光を浴びています。
スウェーデンのあるメーカーによるとオーツミルクは牛乳と比べて、1ℓ当たりで温室効果ガス排出量を80%、土地使用を79%、エネルギー消費を60%も削減できるとされています。また、植物性ミルクの中で最も栽培に水を必要としないともいわれています。
■ オーツミルクの普及スピード
オーツミルクは日本のスーパーで購入することも可能です。ただ今はそれほどメジャーというわけではないようです。アメリカでは日本でも有名なコーヒーチェーンをはじめ多くの屋号で普通にオーツミルクが販売されており、レジでの会話は「オーツにしますか?それともソイですか?」というのが普通だそうです。
確かに気候変動への影響という点では植物性ミルクの台頭は大変好ましいといえます。ただここで早合点してはいけないことがあります。それは農薬、化学肥料による温室効果ガス、特に亜酸化窒素ガスの排出と土中の微生物の消滅です。
世界中が植物性ミルクにすれば結果的に牛のゲップとおならは激減します。植物肉も100%になれば更に拍車が掛かります。しかし現状の植物性ミルクはイメージ程には環境改善に貢献しているかは“?”です。
例えばソイミルクを例にとると原料の大豆はGMOである可能性は非常に高く、栽培に大量の農薬、除草剤が使われているでしょう。その結果、土中の微生物の死滅による大気中への炭素の放出、あるいは農薬・化学肥料に含有する亜酸化窒素や、その他の窒素化合物が地下水や河川へ流入する頃で起こる水質悪化。また、アーモンド栽培には大量の水を必要とするため実際は水不足に拍車を掛けているなど、経済界によって演出されるイメージ作りが実態を見えづらくしていることに注意しなくてはなりません。
もちろんオーツミルクも同様です。原材料の「えん麦」がオーガニックかどうか? そこをしっかりと見極めて上で、売り手の思惑に飲み込まれないようしっかりと地に足を付けてこれからのムーブメントに備えていく必要があるのです。
参考:
英フィナンシャル・タイムズ電子版
森川潤 著「グリーンジャイアント」(文春文庫)