翔栄ファームコラムの執筆目的は、
日常の食生活において、私たち一人ひとりが
的確な食品選択が出来るように、
必要最低限レベルの基本知識をもっていただくことです。
恐らく当コラムの読者の皆様には
今回のテーマは今更感が強いかもしれません。
しかしその一方で知っていたつもりだけど
よくよく考えてみると、これどうだったっけ?
ということもあると思います。
というわけで本日は、
「在来種は固定種ですか?」と題して、
これに対する結論はもちろんのこと、
これだけに留まらず、原種やエアルームプラント、
品種改良、交配育種など、周辺のキーワードも交えて
頭の中の整理ができればいいかなあと思っています。
では早速「在来種」の定義からです。
■ 在来種の定義
在来作物の研究や保存活動などに
積極的に取り組んでいる
山形大学農学部の江頭宏昌教授によると、
「在来種は、世代を越えて栽培者自身が自家採種などで栽培と保存を続けながら生活に利用されてきた作物である。自家採種を繰り返すと、地域の自然環境や栽培者の感性に適応した固有の遺伝的形質を持つようになる。採種者が多いほど、地域の遺伝的多様性が保たれやすく、地域の伝統食に欠かせない食材であることも多い」
と定義されています。
(恐らくここまで体系的に在来種を定義したものは
これ以外にないと思います。よって当コラムでは
これをベースに論を進めて参ります)
先ず、今回のテーマの「在来種は固定種ですか?」
という答えから申し上げますと、
それは「その通り」です。
つまりポイントは自家採種です。
江頭教授の在来種の定義にもあるように、
自家採種を繰り返すことで、
地域の自然環境や栽培者の感性に適応した
固有の遺伝的形質を持つ固定種となっていくのです。
地域の食文化や地産地消という観点から整理するならば、
在来種は固定種の完成形
ということができるかもしれません。
■ 在来種への道
翔栄ファームは固定種を
農薬と化学肥料を一切使用せずに栽培しています。
また同時に自家採種100%を目指しています。
まだ40%強という段階ではありますが
龍ヶ崎農場において興味深い実験結果がありますので
一例をご紹介します。
写真にある作物はオクラです。
向かって左側に見える背の高いオクラの列が
昨年採取した種を植えたものです。
そして右側の列が今年購入した
同じ品種のオクラの固定種です。
播種は同時に行っています。
たった1年の差とはいえ、
昨年自家採種したものはすでにこの土地の自然環境、
つまり土質に適応し始めているのが
お分かりいただけると思います。
何年、何十年先になるかは分かりませんが
このオクラは将来的に龍ヶ崎特産の
在来種オクラになるかもしれません。
■ 固定種の作り方
固定種の作り方と聞くと
違和感を覚える方もいらっしゃると思われます。
しかしここは思い違いをしやすい箇所でもありますので
一度整理しておきたいと考えます。
一番多い誤解は
「固定種は昔からその土地に自生している原種である」
というものです。
換言すれば人間の努力や工夫を
要さない領域であるともいえるかもしれません。
しかしこれは大きな間違いです。
数多く存在する固定種の先祖を辿っていけば
確かに原種やエアルームプラントといわれるような、
その土地土地に自生していた作物に
いきつくかもしれません。
ただこれはあくまでも自生種や原種なのです。
固定種とはその性質を固定化、
つまり播種すると一定レベルの品質が担保されるように
何十代にも渡って元気な株を選抜、
そしてそれらを交配させていった結果
という人間の努力の賜物なのです。
(ただし念のためですが、
この人間の介在の中でF1種開発の際に行われる
雄性不稔化等のための遺伝子組換え、
ゲノム編集といった遺伝子操作
または異品種交配を行わないことは
言うまでもありません)
そして日本人は交配育種あるいは品種改良が
世界と比べてずば抜けて優秀だといわれており、
生み出した固定種の種類は世界一です。
■ 上泉理想大根
先日、群馬県前橋市の在来種「上泉理想大根」の
生産者のお話を伺う機会がありました。
上泉理想大根は市場に出回ることがなく、
今となっては2軒の農家のみで自家採種され、
たくあん漬けとしてほとんど自家消費のためだけに
栽培されているそうです。
在来種である上泉理想大根の
歴史についてお聞きしたところ、
もともとは固定種練馬大根の種を前橋市に持ち帰り、
約300年を掛けて「播種→栽培→収穫→自家採種
→播種→交配育種→収穫→自家採種」を行ってきた結果、
練馬大根とは違う固定種としての
独自の品種と認められるに至り、
結果的には赤城山の麓である前橋市の
大地に根差した在来種となったとのこと。
とてつもない篤農家(とくのうか)の
努力があったことがお分かりいただけると思います。
当然ですが自家採種を続けてきた結果です。
自家採種による“未来へ命をつなぐことの尊さ”が
一粒の固定種・在来種の種に秘められているのです。
ちなみに練馬大根から全国各地で
独自に固定化された大根は比較的数多く見受けられます。
その広まり方が興味深く、
参勤交代による街道整備や交易の拡大とともに、
北前船の舟運、近江商人、越中富山の薬売り、
善光寺詣、お伊勢参り、湯治など、旅人や商人などの手で
全国各地に伝播したといわれています。
■ 農薬・化学肥料不使用の固定種・在来種はほぼ皆無
最後に、何となく在来種と固定種の違いや
固定種の成り立ちについては整理できたところで、
私も含め多くの方々が陥りやすい
罠があることをお伝えしたいと思います。
旅行などで全国各地を訪れた際に、
市場や道の駅などで見つけた
その土地の伝統野菜等を買うことがあると思います。
それ自体は素晴らしい出会いであり体験ではありますが、
目新しさだけに意識が集中してしまい、
その在来種・固定種作物が農薬と化学肥料不使用、
あるいはせめて減農薬・低農薬で
栽培されているかを見落としがちです。
当コラム冒頭でお伝えした通り、
私たちは結構思い違いをしていたり、
知っているつもりでいたりするものです。
これをお読みいただいている方の中には、
あくまでももしかしてという話に過ぎませんが、
在来種・固定種は農薬・化学肥料不使用で栽培されていて
当然と思ってはいないでしょうか?
翔栄ファームコラムの執筆目的は、日常の食生活において、私たち一人ひとりが的確な食品選択が出来るように、必要最低限レベルの基本知識をもっていただくことです。
恐らく当コラムの読者の皆様には今回のテーマは今更感が強いかもしれません。しかしその一方で知っていたつもりだけどよくよく考えてみると、これどうだったっけ? ということもあると思います。
というわけで本日は、「在来種は固定種ですか?」と題して、これに対する結論はもちろんのこと、これだけに留まらず、原種やエアルームプラント、品種改良、交配育種など、周辺のキーワードも交えて頭の中の整理ができればいいかなあと思っています。
では早速「在来種」の定義からです。
■ 在来種の定義
在来作物の研究や保存活動などに積極的に取り組んでいる山形大学農学部の江頭宏昌教授によると、
「在来種は、世代を越えて栽培者自身が自家採種などで栽培と保存を続けながら生活に利用されてきた作物である。自家採種を繰り返すと、地域の自然環境や栽培者の感性に適応した固有の遺伝的形質を持つようになる。採種者が多いほど、地域の遺伝的多様性が保たれやすく、地域の伝統食に欠かせない食材であることも多い」
と定義されています(恐らくここまで体系的に在来種を定義したものはこれ以外にないと思います。よって当コラムではこれをベースに論を進めて参ります)。
先ず、今回のテーマの「在来種は固定種ですか?」という答えから申し上げますと、それは「その通り」です。
つまりポイントは自家採種です。江頭教授の在来種の定義にもあるように、自家採種を繰り返すことで、地域の自然環境や栽培者の感性に適応した固有の遺伝的形質を持つ固定種となっていくのです。地域の食文化や地産地消という観点から整理するならば、在来種は固定種の完成形ということができるかもしれません。
■ 在来種への道
翔栄ファームは固定種を農薬と化学肥料を一切使用せずに栽培しています。また同時に自家採種100%を目指しています。まだ40%強という段階ではありますが龍ヶ崎農場において興味深い実験結果がありますので一例をご紹介します。
写真にある作物はオクラです。向かって左側に見える背の高いオクラの列が昨年採取した種を植えたものです。そして右側の列が今年購入した同じ品種のオクラの固定種です。播種は同時に行っています。たった1年の差とはいえ、昨年自家採種したものはすでにこの土地の自然環境、つまり土質に適応し始めているのがお分かりいただけると思います。何年、何十年先になるかは分かりませんがこのオクラは将来的に龍ヶ崎特産の在来種オクラになるかもしれません。
■ 固定種の作り方
固定種の作り方と聞くと違和感を覚える方もいらっしゃると思われます。しかしここは思い違いをしやすい箇所でもありますので一度整理しておきたいと考えます。
一番多い誤解は「固定種は昔からその土地に自生している原種である」というものです。換言すれば人間の努力や工夫を要さない領域であるともいえるかもしれません。
しかしこれは大きな間違いです。数多く存在する固定種の先祖を辿っていけば確かに原種やエアルームプラントといわれるような、その土地土地に自生していた作物にいきつくかもしれません。ただこれはあくまでも自生種や原種なのです。固定種とはその性質を固定化、つまり播種すると一定レベルの品質が担保されるように何十代にも渡って元気な株を選抜、そしてそれらを交配させていった結果という人間の努力の賜物なのです。
(ただし念のためですが、この人間の介在の中でF1種開発の際に行われる雄性不稔化等のための遺伝子組換え、ゲノム編集といった遺伝子操作または異品種交配を行わないことは言うまでもありません)
そして日本人は交配育種あるいは品種改良が世界と比べてずば抜けて優秀だといわれており、生み出した固定種の種類は世界一です。
■ 上泉理想大根
先日、群馬県前橋市の在来種「上泉理想大根」の生産者のお話を伺う機会がありました。上泉理想大根は市場に出回ることがなく、今となっては2軒の農家のみで自家採種され、たくあん漬けとしてほとんど自家消費のためだけに栽培されているそうです。
在来種である上泉理想大根の歴史についてお聞きしたところ、もともとは固定種練馬大根の種を前橋市に持ち帰り、約300年を掛けて「播種→栽培→収穫→自家採種→播種→交配育種→収穫→自家採種」を行ってきた結果、練馬大根とは違う固定種としての独自の品種と認められるに至り、結果的には赤城山の麓である前橋市の大地に根差した在来種となったとのこと。
とてつもない篤農家(とくのうか)の努力があったことがお分かりいただけると思います。当然ですが自家採種を続けてきた結果です。自家採種による“未来へ命をつなぐことの尊さ”が一粒の固定種・在来種の種に秘められているのです。
ちなみに練馬大根から全国各地で独自に固定化された大根は比較的数多く見受けられます。その広まり方が興味深く、参勤交代による街道整備や交易の拡大とともに、北前船の舟運、近江商人、越中富山の薬売り、善光寺詣、お伊勢参り、湯治など、旅人や商人などの手で全国各地に伝播したといわれています。
■ 農薬・化学肥料不使用の固定種・在来種はほぼ皆無
最後に、何となく在来種と固定種の違いや固定種の成り立ちについては整理できたところで、私も含め多くの方々が陥りやすい罠があることをお伝えしたいと思います。
旅行などで全国各地を訪れた際に、市場や道の駅などで見つけたその土地の伝統野菜等を買うことがあると思います。それ自体は素晴らしい出会いであり体験ではありますが、目新しさだけに意識が集中してしまい、その在来種・固定種作物が農薬と化学肥料不使用、あるいはせめて減農薬・低農薬で栽培されているかを見落としがちです。
当コラム冒頭でお伝えした通り、私たちは結構思い違いをしていたり、知っているつもりでいたりするものです。これをお読みいただいている方の中には、あくまでももしかしてという話に過ぎませんが、在来種・固定種は農薬・化学肥料不使用で栽培されていて当然と思ってはいないでしょうか?
参考:
「地だいこんの遺伝資源としての価値と全国の地だいこん」調査・報告(野菜情報 2019年9月号)