古き日本では無農薬の作物栽培は
当たり前の光景でした。
自分や家族の食べる分は自宅の庭で作る
これも珍しいことではなかったようです。
また、今でこそ「地産地消」が
声高に推奨されていますが、
当時はむしろそれが当たり前、
近隣農家が何を作っているかは
その地域の住民であれば
あらかた知っていたかもしれません。
まさに「顔の見える生産者と食材」です。
恐らく地域社会という規模単位の商圏では、
全体量としての過不足はなく、
地域での必要量が生産される能力が
あったのだと思われます。
この表現に偏りがあるとしても、
少なからず無駄を生み出すことは
なかったのではないかと思います。
では一体なぜ、現代においては
農薬が使われるのでしょうか?
■ 農薬は必要なのか?
農薬を使う目的は明確です。
農作物に発生する害虫・病気・雑草を
退治したり除いたりするためです。
とはいえ、前述の古き日本では
無農薬が多かったにもかかわらず
なぜいま農薬に頼る必要があるかといえば、
一番の大きな理由は「人口の増加」
であることは間違いありません。
現在、日本の人口は
減少傾向にあることは事実ですが、
農薬が盛んに使われ始めた
昭和初期近辺(昭和11年)における
日本の人口は6,925万人。
現在の約5割弱になります。
人口が1億人を超えたのは
1970年(昭和45年)のことなので
約35年で3,000万人増えたことに。
当然食料の必要量も激増しました。
この状況で求められることは、
農作物に限って言えば、
1:生産者の確保
2:生産面積の拡大
3:生産性の向上
ということになります。
農薬の使用はこの「3:生産性の向上」
であることは言うに及びません。
したがってこの段階では少なからず
必要悪ということになります。
■ 農薬の定義
農薬とは農作物に害をおよぼす
虫や病気の退治や、雑草を枯らすため
使われる薬剤などのことです。
そしてそれらの農薬の中には
様々な用途を持つものがあります。
「殺虫剤」は害虫を退治する薬剤。
「殺菌剤」は農作物に有害な微生物を退治する薬剤。
「除草剤」は雑草を枯らすための薬剤。
「殺鼠剤(さっそざい)」は農作物を害するネズミを駆除する薬剤。
「植物成長調整剤」は発芽・開花などを促進したり、抑えたりする薬剤。
という具合です。
そしてこれらの農薬は、農薬取締法
という法律で規定されています。
ただし、同じ科学物質であっても、
農業・園芸用製品は「農薬」に分類、
家庭用のハエ・ゴキブリ退治用製品などは
「農薬」に分類されないなど、
日常生活に知らず知らずのうちに、
農薬に匹敵する化学物質が
紛れ込んでいる可能性はあるのです。
■ 残留農薬基準
ところで、当コラムの主題は
「食生活と残留農薬」です。
よほど気を使って食物を選択しない限り、
私たちは残留農薬の問題から
逃れることはできません。
したがって、日常的食生活には
残留農薬があるという前提に立ち、
先ずは残留農薬基準についての
知識を持つことからはじめようと思います。
農林水産省の消費・安全政策課
「残留農薬は危ないの?」によると、
残留農薬の基準値は食品衛生法という
法律によって規定されています。
そして残留基準値は下記のような
プロセスで決められていきます。
(1)
農薬Aを農作物aに使った場合、
どれだけの量が収穫時に残留するかを調べ、
それを食べることで摂取する農薬Aの量を推定。
これを農作物b、c……と実施していきます。
(2)
上記の結果をもとに、一日の食事(献立)から
人が摂取するであろう農薬Aの総量を算出。
総量が「一日許容摂取量※」の80%以下であれば、
農作物に残留すると推定した農薬Aの濃度が、
残留基準値として設定されます。
(※一日摂取許容量=ヒトがある物質を毎日一生涯にわたって摂取し続けても、健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量)
つまり必要最低限、この基準値を
クリアしている農作物以外は
危険があるということです。
しかし、我々一般消費者にとって
一番気になるのは、基準値内であっても、
残留農薬が健康あるいは人体に影響を
及ぼすのではないか、ということでしょう。
■ 健康被害はあるのか?
前回のコラム「ヴィーガンと環境問題」
において、ヴィーガンやヴェジタリアンの
食性について簡単に述べましたが、
仮に彼らが無農薬またはオーガニックの
食生活を行っていなかったとするならば、
体内の残留農薬の蓄積が
非常に気になりはしないでしょうか。
そして当然、残留農薬の影響は
農作物だけに留まらず、畜産物、
つまり家畜の飼料にもおよぶ問題です。
特に畜産用飼料ということになると
残留農薬以外に遺伝子組換えや
ゲノム編集という別の要素が加わります。
ここでは残留農薬にフォーカスしますが、
農作物ごとに定められる残留基準値には、
その国の平均的な年間摂取量が
大きく影響することを知る必要があります。
どういうことかというと、例えば白菜。
日本の基準値は1ppm。対して韓国は0.5ppm。
数値だけを見ると日本は韓国よりも
基準が緩いということになります。
しかし、食生活を思い浮かべると
合点がいくのではないでしょうか。
一人当たりの白菜の年間消費量が
明らかに違うからです。
念のためですがこの場合はキムチです。
というように食習慣・摂取量が
基準値の考え方にも大きく影響するため
自身の食生活に偏りがあるのであれば
そこは注意が必要かもしれません。
更に、個人間による体質の違い
というのは当然あります。
専門家ではないため深入りは避けますが、
簡単に言えばアルコール耐性の違いとか、
アレルギーなどもありますよね。
また、これは盲点なのですが、
様々な農薬同士の相性があり、
基準値以内であっても、残留農薬Aと
残留農薬Bの組み合わせが悪いとか、
服用している抗生物質と
残留農薬Cの組み合わせが最悪とか、
先ほど部屋に散布した殺虫剤成分と
残留農薬Dの相性の悪さにより
健康や人体に悪影響を及ぼすこと等、
様々なケースが確認されています。
いずれにせよ、自分の食べるものを
よく吟味する必要がありますね。
■ 日常生活でできる工夫
反栄養素というものをご存じでしょうか?
反栄養素はレクチン、フィチン酸塩、
シュウ酸塩とグルテンのことです。
これらは食材に初めから含まれる物質のため、
食べてはいけないというものでありませんが、
摂りすぎないように注意をすることと、
食材に合う調理方法を調べる必要はあります。
なぜならばこれらは「栄養疎外物質」
とも言われているからです。
(グルテンフリーなんて言葉を
聞いたことがあると思います)
そしてこれが一番大切かもしれません。
「残留農薬は洗って流す」ということです。
水洗いでも効果的ですが、
更に精度を高めるためには、
10%の重曹水や10%の酢溶液に
20分程度漬け置きしてから
水洗いするのが効果的と言われています。
これはぜひとも日常化するべき
生きる上での知恵だと思っています。
厚生労働省の食費衛生法で定められた
基準値以内であったとしても、
農薬が使用された農作物を食べ続ける限り、
残留農薬が体内に蓄積され続けることは
間違いないのですから。
古き日本では無農薬の作物栽培は当たり前の光景でした。自分や家族の食べる分は自宅の庭で作るこれも珍しいことではなかったようです。
また、今でこそ「地産地消」が声高に推奨されていますが、当時はむしろそれが当たり前、近隣農家が何を作っているかはその地域の住民であればあらかた知っていたかもしれません。まさに「顔の見える生産者と食材」です。恐らく地域社会という規模単位の商圏では、全体量としての過不足はなく、地域での必要量が生産される能力があったのだと思われます。
この表現に偏りがあるとしても、少なからず無駄を生み出すことはなかったのではないかと思います。
では一体なぜ、現代においては農薬が使われるのでしょうか?
■ 農薬は必要なのか?
農薬を使う目的は明確です。農作物に発生する害虫・病気・雑草を退治したり除いたりするためです。
とはいえ、前述の古き日本では無農薬が多かったにもかかわらず、なぜいま農薬に頼る必要があるかといえば、一番の大きな理由は「人口の増加」であることは間違いありません。
現在、日本の人口は減少傾向にあることは事実ですが、農薬が盛んに使われ始めた昭和初期近辺(昭和11年)における日本の人口は6,925万人。現在の約5割弱になります。人口が1億人を超えたのは1970年(昭和45年)のことなので、約35年で3,000万人増えたことに。
当然食料の必要量も激増しました。この状況で求められることは、農作物に限って言えば、
1:生産者の確保
2:生産面積の拡大
3:生産性の向上
ということになります。農薬の使用はこの「3:生産性の向上」であることは言うに及びません。したがってこの段階では少なからず必要悪ということになります。
■ 農薬の定義
農薬とは農作物に害をおよぼす虫や病気の退治や、雑草を枯らすため使われる薬剤などのことです。そしてそれらの農薬の中には様々な用途を持つものがあります。
●「殺虫剤」は害虫を退治する薬剤 ●「殺菌剤」は農作物に有害な微生物を退治する薬剤 ●「除草剤」は雑草を枯らすための薬剤 ●「殺鼠剤(さっそざい)」は農作物を害するネズミを駆除する薬剤 ●「植物成長調整剤」は発芽・開花などを促進したり、抑えたりする薬剤
という具合です。そしてこれらの農薬は、農薬取締法という法律で規定されています。
ただし、同じ科学物質であっても、農業・園芸用製品は「農薬」に分類、家庭用のハエ・ゴキブリ退治用製品などは「農薬」に分類されないなど、日常生活に知らず知らずのうちに、農薬に匹敵する化学物質が紛れ込んでいる可能性はあるのです。
■ 残留農薬基準
ところで、当コラムの主題は「食生活と残留農薬」です。よほど気を使って食物を選択しない限り、私たちは残留農薬の問題から逃れることはできません。したがって、日常的食生活には残留農薬があるという前提に立ち、先ずは残留農薬基準についての知識を持つことからはじめようと思います。
農林水産省の消費・安全政策課「残留農薬は危ないの?」によると、残留農薬の基準値は食品衛生法という法律によって規定されています。そして残留基準値は下記のようなプロセスで決められていきます。
(1)
農薬Aを農作物aに使った場合、どれだけの量が収穫時に残留するかを調べ、それを食べることで摂取する農薬Aの量を推定。これを農作物b、c……と実施していきます。
(2)
上記の結果をもとに、一日の食事(献立)から人が摂取するであろう農薬Aの総量を算出。総量が「一日許容摂取量※」の80%以下であれば、農作物に残留すると推定した農薬Aの濃度が、残留基準値として設定されます。
(※一日摂取許容量=ヒトがある物質を毎日一生涯にわたって摂取し続けても、健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量)
つまり必要最低限、この基準値をクリアしている農作物以外は危険があるということです。
しかし、我々一般消費者にとって一番気になるのは、基準値内であっても、残留農薬が健康あるいは人体に影響を及ぼすのではないか、ということでしょう。
■ 健康被害はあるのか?
前回のコラム「ヴィーガンと環境問題」(https://syouei-farm.net/anzen/201006/)において、ヴィーガンやヴェジタリアンの食性について簡単に述べましたが、仮に彼らが無農薬またはオーガニックの食生活を行っていなかったとするならば、体内の残留農薬の蓄積が非常に気になりはしないでしょうか。そして当然、残留農薬の影響は農作物だけに留まらず、畜産物、つまり家畜の飼料にもおよぶ問題です。特に畜産用飼料ということになると残留農薬以外に遺伝子組換えやゲノム編集という別の要素が加わります。
ここでは残留農薬にフォーカスしますが、農作物ごとに定められる残留基準値には、その国の平均的な年間摂取量が大きく影響することを知る必要があります。
どういうことかというと、例えば白菜。日本の基準値は1ppm。対して韓国は0.5ppm。数値だけを見ると日本は韓国よりも基準が緩いということになります。しかし、食生活を思い浮かべると合点がいくのではないでしょうか。一人当たりの白菜の年間消費量が明らかに違うからです。念のためですがこの場合はキムチです。
というように食習慣・摂取量が基準値の考え方にも大きく影響するため、自身の食生活に偏りがあるのであればそこは注意が必要かもしれません。
更に、個人間による体質の違いというのは当然あります。専門家ではないため深入りは避けますが、簡単に言えばアルコール耐性の違いとか、アレルギーなどもありますよね。
また、これは盲点なのですが、様々な農薬同士の相性があり、基準値以内であっても、残留農薬Aと残留農薬Bの組み合わせが悪いとか、服用している抗生物質と残留農薬Cの組み合わせが最悪とか、先ほど部屋に散布した殺虫剤成分と残留農薬Dの相性の悪さにより健康や人体に悪影響を及ぼすこと等、様々なケースが確認されています。
いずれにせよ、自分の食べるものをよく吟味する必要がありますね。
■ 日常生活でできる工夫
反栄養素というものをご存じでしょうか?
反栄養素はレクチン、フィチン酸塩、シュウ酸塩とグルテンのことです。
これらは食材に初めから含まれる物質のため、食べてはいけないというものでありませんが、摂りすぎないように注意をすることと、食材に合う調理方法を調べる必要はあります。なぜならばこれらは「栄養疎外物質」とも言われているからです(グルテンフリーなんて言葉を聞いたことがあると思います)。
そしてこれが一番大切かもしれません。「残留農薬は洗って流す」ということです。水洗いでも効果的ですが、更に精度を高めるためには、10%の重曹水や10%の酢溶液に20分程度漬け置きしてから水洗いするのが効果的と言われています。これはぜひとも日常化するべき生きる上での知恵だと思っています。
厚生労働省の食費衛生法で定められた基準値以内であったとしても、農薬が使用された農作物を食べ続ける限り、残留農薬が体内に蓄積され続けることは間違いないのですから。