■ 食料価格の上昇
2021年10月8日の日本経済新聞の記事によると、
国連食糧農業機関(FAQ)は、
2021年9月の「世界の食料価格指数」が
前年同月比で33%上昇したと発表しました。
2ヶ月連続の上昇で、
特に穀物や植物油の値上がりが目立つとし、
食料インフレは貧困に拍車をかけ
途上国に政情不安を招く恐れがあると伝えています。
因みに穀物価格は27%の上昇で、
異常気象による渇水が深刻な農業大国ブラジルでは、
とうもろこしなどの収穫量が減少し、
同じく穀倉地帯であるアメリカやカナダでも
干ばつが農業に影響を及ぼしているとしています。
植物油価格にいたっては
61%上昇とさらに高騰していて、
その主な原因が、世界的な「脱炭素」の流れを受けて
低炭素燃料であるバイオ燃料の需要が加速した結果、
その原料となるパーム油など
植物油の需要が拡大したというのです。
理由はともあれ食料インフレは家計を直撃し、
特に主食を輸入に頼る途上国には大きな打撃となり得ます。
ご記憶の方も少なくないと思いますが、
中東の民主化運動「アラブの春」は
主食のパン価格の高騰がきっかけであったといわれています。
■ 自給率を上げることの必要性
当コラムでは比較的多く
食料自給率の低さを話題に挙げています。
ご存じの通り、日本の食糧自給率は約39%程度です。
前項では食料インフレの話をしましたが、その根底には
地球規模の環境破壊があることは動かし難い事実です。
そしてこの状況は
一朝一夕に改善されることはないどころか
刻一刻と悪化しているのが現状です。
つまり物価は今後も加速度的に
上昇するリスクがあるということです。
さて、日本の食糧自給率の話に戻ります。
自給率39%は換言すれば
約61%は輸入に頼っているということでもあり、
「食料価格の上昇=食料不足」はすなわち
日本人の食料が不足するということをも意味します。
このような状況下で、昨年12月に日本政府が掲げた
「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」
の中の「有機農業の促進」は光明といえるのかもしれません。
■ 有機農法の重要性
日本で有機やオーガニックと宣言する場合は
有機JASの認定を受けている必要があります。
確かに消費者保護の観点からは
定義やルールは非常に大切だと思っていますが、
一方で生産者側のハードルを上げているような
印象を受けることもまた事実です。
今号のタイトルは「定義に捉われない有機農法」。
ということで今回のコラムに限っては
有機やオーガニックというワードを
有機JASの規定から切り離して、
もっと根源的な、あるいは私たち一般消費者が
これらの響きからイメージする
もっとシンプルなものとして扱っていきたいと思います。
農業者であり堆肥・育土研究所主宰の橋本力男氏は
雑誌SPECTATORのインタビュー記事の中で、
有機農法とは何ですか? という質問に対して、
「有機農法とはまったく農薬や化学肥料を使わすに野菜作りを行うこと」
と答えています。
実際、このような農法は日本において
どのくらいあるのでしょうか?
何と全体の0.5%程度。
仮に農薬・化学肥料不使用にプラスして
不耕起、不除草の自然農法を含めたとしてもこの程度です。
では日本の農業の構造はどのようになっているかというと、
農薬も化学肥料も使う慣行農法が約53%、
化学肥料と農薬を削減して栽培する環境保全型農業
(減農薬栽培や低農薬栽培を含む)が約46%となり、
農薬・化学肥料不使用の栽培による農作物は
事実上ほとんど日本で生産されていないのが実態です。
にもかかわらず農薬と化学肥料を使っていても
使用基準さえ守っていれば
「安全」「安心」は確保できるのです、といっている。
これが日本の現状なのです。
■ 日本で有機農法が広がらないのはなぜか
同インタビューの中で
橋本氏に日本で有機農法が広がらない理由について
以下のように答えています。
「買う人が少ないからです。それは本当の意味で、有機栽培で良い質の作物ができていないからだとも思っています。つまり価格差に見合う付加価値が提供できていないのです。質の良いものを作れば高くても引き合いがきます。美味しいラーメンを作れば遠くからでも店に来ますよね」
厳しいご指摘と同時に
本質を捉えた意見とも思いますが
皆様はいかがでしょうか。
この仮説に基づけば解決策は
美味しい野菜を作るということです。
それはすなわち土づくりということに他なりません。
■ 堆肥のトレーサビリティー
最近では家庭の生ごみを利用して
コンポスト(堆肥)を作る動きが
静かなブームとなっています。
試みとしては非常に好ましく思えるのですが、
問題はその生ごみに食品添加物や農薬が
大量に使用されているということです。
ヨーロッパでは堆肥を作る場合、
レモンの皮でも何でも有機栽培由来の生ごみしか
有機堆肥に使ってはいけないという
厳しい認定基準がありますが、
日本では現在、有機JASでさえ、
ごく普通の生ごみ堆肥を容認しています。
もちろんどれが正しい、正しくない、の話ではありません。
しかし実態を知り判断材料を持っておくことは
大切だと思っています。
■ 堆肥作りの基本
橋本氏によると、堆肥作りの基本は、
落ち葉、わら、もみ殻、おから等の有機資材を集め、
山型、ドーム状、またはかまぼこ状に、軽いものから
サンドウィッチ上に重ねていくことだそうです。
このような行為は一見不自然に思えますが、
自然界においても、例えば野山に吹き溜まりがあり、
そこに落ち葉が堆積して雨が降って発酵が起き、
30℃とか40℃の熱が出てできたものが腐葉土になります。
これが土壌微生物の働きを活性します。
つまり堆肥の原型です。
この自然の営みを模倣したものが堆肥作りです。
発酵は微生物によって引き起こされます。
堆肥作りは発酵技術であるがゆえに
適切な管理を必要とします。
どれだけ良い材料を使っても
管理が悪いと発酵せずに腐敗してしまうからです。
特に水分管理は非常に大切で水が多すぎると腐敗し、
逆に少なすぎると灰白色になって焼けてしまいます。
■ 主役は土壌微生物
「土は生きている」と言われます。
それは土の中にいる無数ともいえる土壌微生物が
盛んな生命活動を行っているからです。
因みに自然栽培の水田は化学肥料のそれより
地温が2~3℃も高いそうです。
土壌の微生物が盛んに呼吸をしている証拠です。
先述の
「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」
における日本の農地の25%を
有機農場とするとの国の計画に基づき、
日本の土壌が豊かな団粒構造を取り戻すことを
私たちは願ってやみません。
■ 食料価格の上昇
2021年10月8日の日本経済新聞の記事によると、国連食糧農業機関(FAQ)は、2021年9月の「世界の食料価格指数」が前年同月比で33%上昇したと発表しました。2ヶ月連続の上昇で、特に穀物や植物油の値上がりが目立つとし、食料インフレは貧困に拍車をかけ途上国に政情不安を招く恐れがあると伝えています。
因みに穀物価格は27%の上昇で、異常気象による渇水が深刻な農業大国ブラジルでは、とうもろこしなどの収穫量が減少し、同じく穀倉地帯であるアメリカやカナダでも干ばつが農業に影響を及ぼしているとしています。
植物油価格にいたっては61%上昇とさらに高騰していて、その主な原因が、世界的な「脱炭素」の流れを受けて低炭素燃料であるバイオ燃料の需要が加速した結果、その原料となるパーム油など植物油の需要が拡大したというのです。
理由はともあれ食料インフレは家計を直撃し、特に主食を輸入に頼る途上国には大きな打撃となり得ます。ご記憶の方も少なくないと思いますが、中東の民主化運動「アラブの春」は主食のパン価格の高騰がきっかけであったといわれています。
■ 自給率を上げることの必要性
当コラムでは比較的多く食料自給率の低さを話題に挙げています。ご存じの通り、日本の食糧自給率は約39%程度です。前項では食料インフレの話をしましたが、その根底には地球規模の環境破壊があることは動かし難い事実です。そしてこの状況は一朝一夕に改善されることはないどころか刻一刻と悪化しているのが現状です。つまり物価は今後も加速度的に上昇するリスクがあるということです。
さて、日本の食糧自給率の話に戻ります。
自給率39%は換言すれば約61%は輸入に頼っているということでもあり、「食料価格の上昇=食料不足」はすなわち日本人の食料が不足するということをも意味します。このような状況下で、昨年12月に日本政府が掲げた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の中の「有機農業の促進」は光明といえるのかもしれません。
■ 有機農法の重要性
日本で有機やオーガニックと宣言する場合は有機JASの認定を受けている必要があります。確かに消費者保護の観点からは定義やルールは非常に大切だと思っていますが、一方で生産者側のハードルを上げているような印象を受けることもまた事実です。
今号のタイトルは「定義に捉われない有機農法」。ということで今回のコラムに限っては有機やオーガニックというワードを有機JASの規定から切り離して、もっと根源的な、あるいは私たち一般消費者がこれらの響きからイメージするもっとシンプルなものとして扱っていきたいと思います。
農業者であり堆肥・育土研究所主宰の橋本力男氏は雑誌SPECTATORのインタビュー記事の中で、有機農法とは何ですか? という質問に対して、「有機農法とはまったく農薬や化学肥料を使わすに野菜作りを行うこと」と答えています。
実際、このような農法は日本においてどのくらいあるのでしょうか?
何と全体の0.5%程度。
仮に農薬・化学肥料不使用にプラスして不耕起、不除草の自然農法を含めたとしてもこの程度です。では日本の農業の構造はどのようになっているかというと、農薬も化学肥料も使う慣行農法が約53%、化学肥料と農薬を削減して栽培する環境保全型農業(減農薬栽培や低農薬栽培を含む)が約46%となり、農薬・化学肥料不使用の栽培による農作物は事実上ほとんど日本で生産されていないのが実態です。にもかかわらず農薬と化学肥料を使っていても使用基準さえ守っていれば「安全」「安心」は確保できるのです、といっている。これが日本の現状なのです。
■ 日本で有機農法が広がらないのはなぜか
同インタビューの中で橋本氏に日本で有機農法が広がらない理由について以下のように答えています。
「買う人が少ないからです。それは本当の意味で、有機栽培で良い質の作物ができていないからだとも思っています。つまり価格差に見合う付加価値が提供できていないのです。質の良いものを作れば高くても引き合いがきます。美味しいラーメンを作れば遠くからでも店に来ますよね」
厳しいご指摘と同時に本質を捉えた意見とも思いますが皆様はいかがでしょうか。この仮説に基づけば解決策は美味しい野菜を作るということです。それはすなわち土づくりということに他なりません。
■ 対比のトレーサビリティー
最近では家庭の生ごみを利用してコンポスト(堆肥)を作る動きが静かなブームとなっています。試みとしては非常に好ましく思えるのですが、問題はその生ごみに食品添加物や農薬が大量に使用されているということです。
ヨーロッパでは堆肥を作る場合、レモンの皮でも何でも有機栽培由来の生ごみしか有機堆肥に使ってはいけないという厳しい認定基準がありますが、日本では現在、有機JASでさえ、ごく普通の生ごみ堆肥を容認しています。
もちろんどれが正しい、正しくない、の話ではありません。しかし実態を知り判断材料を持っておくことは大切だと思っています。
■ 堆肥作りの基本
橋本氏によると、堆肥作りの基本は、落ち葉、わら、もみ殻、おから等の有機資材を集め、山型、ドーム状、またはかまぼこ状に、軽いものからサンドウィッチ上に重ねていくことだそうです。
このような行為は一見不自然に思えますが、自然界においても、例えば野山に吹き溜まりがあり、そこに落ち葉が堆積して雨が降って発酵が起き、30℃とか40℃の熱が出てできたものが腐葉土になります。これが土壌微生物の働きを活性します。つまり堆肥の原型です。
この自然の営みを模倣したものが堆肥作りです。発酵は微生物によって引き起こされます。堆肥作りは発酵技術であるがゆえに適切な管理を必要とします。どれだけ良い材料を使っても管理が悪いと発酵せずに腐敗してしまうからです。特に水分管理は非常に大切で水が多すぎると腐敗し、逆に少なすぎると灰白色になって焼けてしまいます。
■ 主役は土壌微生物
「土は生きている」と言われます。それは土の中にいる無数ともいえる土壌微生物が盛んな生命活動を行っているからです。因みに自然栽培の水田は化学肥料のそれより地温が2~3℃も高いそうです。土壌の微生物が盛んに呼吸をしている証拠です。
先述の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」における日本の農地の25%を有機農場とするとの国の計画に基づき、日本の土壌が豊かな団粒構造を取り戻すことを私たちは願ってやみません。
参考:
日本経済新聞「世界の食料高騰続く 10年ぶり水準、国連調べ」
The Editorial Department Inc. 「SPECTATOR Vol.47」