以前投稿した翔栄ファームコラム
で、土壌や人体など特定の環境中にいる
微生物集団の総体であるマイクロバイオームを
テーマに掲げたことがあります。
人体に棲むその数は何と数百兆個にも及び、
遺伝子の数で見ると
我々ヒトの遺伝子数約21,000個に対して
微生物の遺伝子の総数は数百万個。
つまり私たちは自分自身ではできないことを
微生物に補ってもらっていて、
まさに体内で微生物と“共生”している、
というお話をその中でしました。
今回はその続きというわけではありませんが、
私たちの腸内細菌と地球上の表土について、
これらに果たして関連性があるのかどうか、
このあたりに迫ってみたいと思っています。
先ず本題に入る前にややこしいので、
マイクロバイオームと腸内フローラの違いについて
簡単にお伝えしたいと思いましたが、
基本的には同じものと考えて差し支えありません。
敢えていうならば
人間の腸内にあるマイクロバイオーム(微生物叢)が
腸内フローラ(腸内微生物叢)である
と思っていただければ十分かと。
まあ、あまり言葉の違いにこだわる必要は
これに関してはないようです。
■ 腸内フローラ(腸内細菌叢)とは?
腸内に棲んでいる細菌は、
菌種ごとの塊となって腸の壁に隙間なく
びっしりと張り付いています。
この光景が、品種ごとに並んで咲く
お花畑(flora)にみえることから
「腸内フローラ」と呼ばれています。
正式名称は「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」です。
そして人体内の数百兆個の細菌の
99.9%以上が腸内に棲んでいるのです。
腸が実は生命活動の司令塔であるといわれることが
何となくお分かりいただけるのではないでしょうか。
■ 腸内フローラは千差万別
腸内細菌の形成パターンは、一人ひとり異なります。
食生活や生活環境も関係しますが、
一番大きな影響を与えるものは
母親の腸内環境だといわれています。
赤ちゃんは生まれてくるときに、
母親の産道にある腸内細菌に接触することで
細菌をもらい受けます。
これが赤ちゃんの腸内に入り込み、
腸内細菌として増殖していくというのです。
メタジェン代表の福田真嗣氏への
インタヴュー記事(プレジデント社刊:WIRED vol.40)には
下記のようなことが書かれています。
新生児の腸内環境を調べてみると、分娩方法によって生後数ヶ月で定着する菌が異なるというのです。どういうことかというと、自然分娩では母親の膣内や肛門付近の細菌が、帝王切開では母親の皮膚の細菌が定着するというのです。2020年、ヨーロッパの臨床試験で母親のごく微量の便を混ぜた母乳を帝王切開の新生児に飲ませると、母親の腸内細菌叢が定着したと報告されました。つまりもし便が汚く危険であるならば分娩口と排泄口は離れているはずです。便に塗れて生まれ、腸内細菌叢が「垂直伝播」することがホモサピエンスの繁栄に重要だった
と福田氏はいっています。
■ 腸内細菌の種類
腸内細菌には善玉菌、悪玉菌、日和見菌の
3種類があることはご存じの通りで、理想のバランスは
「善玉菌2・悪玉菌1・日和見菌7」と言われています。
一般的に善玉菌は腸の中で
発酵活動を行い私たちの身体を守り、
悪玉菌は腐敗活動を行って身体に悪影響を及ぼし、
日和見菌は状況によって善玉菌の味方をしたり
悪玉菌の味方をしたりします。
善玉菌が優勢で多くの日和見菌を
味方に付けている状態では、
腸内は酸性を保ち悪玉菌は増殖できません。
その結果として毒性物質が作られなくなります。
しかしそんな悪玉菌も実は必要不可欠な存在なのです。
その働きとは、肉類などのタンパク質を分解して、
便として処理、排泄するという
動物にとってなくてはならないものです。
というわけで、理想的には腸内のバランスを
常に保っていたいところではありますが、
なかなかそうはいかないのが現実です。
特に高脂肪の食事がバランスを崩す大きな原因です。
要は、腸内環境は食べたものに大きく左右されるため、
腸内フローラをよいバランスで維持するためには、
栄養バランスのとれた食事が大切です。
また食事だけではなく、適度な運動は
腸内フローラが活性化するといわれています。
当たり前のことほど継続は難しいものです。
■ 土と内臓
2016年に著された「土と内臓」
(デイビット・モントゴメリー、アン・ビクレー共著)は
土壌微生物と植物の根の関係が、
ヒトの腸内細菌と腸の関係に似ているとして
微生物の重要性を指摘して注目されました。
同著の後半では、癌を患った著者が食生活を改善して
自分の庭で育てた野菜を食べていく過程で、
自分のからだと土とが似ていくことに気が付き、
そこにはいずれも微生物の働きがある
ということが書かれています。
現代人の土離れのせいか
私にとってはとてもインパクトのある作品でしたが、
実は古代ギリシャの哲学者アリストテレスは
ミミズのことを「大地の腸(はらわた)」と呼んだり、
ダーウィンは2000年以上も前からミミズを研究し、
実はそのころから土と腸の類似は広く知られているのです。
■ 食料サプライチェーンの弊害がもたらす健康への影響
翔栄ファームのコラムでは
比較的高い頻度で現代の食糧サプライチェーン、
特に食料生産の方法について、
環境破壊に大きな影響を及ぼしている
ということに言及してきました。
そしてそれは事実であるばかりでなく、
私たち一消費者の健康へも
大きな悪影響を及ぼしかねません。
地球からは健全な表土が失われ、
土中の微生物が激減し、広大な砂漠化が
現在進行形で広がっています。
そしてこれらを取り繕うかのように化学肥料や抗生物質、
肥育ホルモンなどが多用されると同時に、
遺伝子工学の更なる発達により、私たちが摂取する食物は
本来の自然が育む栄養素やエネルギーとは
恐らく別物になってしまっているはずです。
つまり「土と内臓」の文脈に現状を当てはめてみるならば、
地球上の表土から微生物が失われている、
あるいは表土が荒廃しているのならば、
私たちの腸内フローラも
この状況に類似しているということになります。
逆も然りだと思うのです。
自分の腸内フローラのバランスを保つことが
地球上の表土に良い影響を与えられるかもしれません。
つまり環境破壊に愁いがあるのであれば、
自分の正しい食生活によって
自分の健康を守る責任があるということなのです。
以前のコラムで、荒れた大地の再生が容易でないように、
一度乱れた腸内細菌叢のバランスを戻すことも、
そう簡単ではありません。と書きました。
やはり日々の積み重ねが全てなのかもしれません。
以前投稿した翔栄ファームコラム
で、土壌や人体など特定の環境中にいる微生物集団の総体であるマイクロバイオームをテーマに掲げたことがあります。
人体に棲むその数は何と数百兆個にも及び、遺伝子の数で見ると我々ヒトの遺伝子数約21,000個に対して微生物の遺伝子の総数は数百万個。つまり私たちは自分自身ではできないことを微生物に補ってもらっていて、まさに体内で微生物と“共生”している、というお話をその中でしました。
今回はその続きというわけではありませんが、私たちの腸内細菌と地球上の表土について、これらに果たして関連性があるのかどうか、このあたりに迫ってみたいと思っています。
先ず本題に入る前にややこしいので、マイクロバイオームと腸内フローラの違いについて簡単にお伝えしたいと思いましたが、基本的には同じものと考えて差し支えありません。敢えていうならば人間の腸内にあるマイクロバイオーム(微生物叢)が腸内フローラ(腸内微生物叢)であると思っていただければ十分かと。まあ、あまり言葉の違いにこだわる必要は
これに関してはないようです。
■ 腸内フローラ(腸内細菌叢)とは?
腸内に棲んでいる細菌は、菌種ごとの塊となって腸の壁に隙間なくびっしりと張り付いています。この光景が、品種ごとに並んで咲くお花畑(flora)にみえることから「腸内フローラ」と呼ばれています。正式名称は「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」です。
そして人体内の数百兆個の細菌の99.9%以上が腸内に棲んでいるのです。腸が実は生命活動の司令塔であるといわれることが何となくお分かりいただけるのではないでしょうか。
■ 腸内フローラは千差万別
腸内細菌の形成パターンは、一人ひとり異なります。食生活や生活環境も関係しますが、一番大きな影響を与えるものは母親の腸内環境だといわれています。赤ちゃんは生まれてくるときに、母親の産道にある腸内細菌に接触することで細菌をもらい受けます。これが赤ちゃんの腸内に入り込み、腸内細菌として増殖していくというのです。
メタジェン代表の福田真嗣氏へのインタヴュー記事(プレジデント社刊:WIRED vol.40)には、下記のようなことが書かれています。
新生児の腸内環境を調べてみると、分娩方法によって生後数ヶ月で定着する菌が異なるというのです。どういうことかというと、自然分娩では母親の膣内や肛門付近の細菌が、帝王切開では母親の皮膚の細菌が定着するというのです。2020年、ヨーロッパの臨床試験で母親のごく微量の便を混ぜた母乳を帝王切開の新生児に飲ませると、母親の腸内細菌叢が定着したと報告されました。つまりもし便が汚く危険であるならば分娩口と排泄口は離れているはずです。便に塗れて生まれ、腸内細菌叢が「垂直伝播」することがホモサピエンスの繁栄に重要だった
と福田氏はいっています。
■ 腸内細菌の種類
腸内細菌には善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3種類があることはご存じの通りで、理想のバランスは「善玉菌2・悪玉菌1・日和見菌7」と言われています。
一般的に善玉菌は腸の中で発酵活動を行い私たちの身体を守り、悪玉菌は腐敗活動を行って身体に悪影響を及ぼし、日和見菌は状況によって善玉菌の味方をしたり悪玉菌の味方をしたりします。
善玉菌が優勢で多くの日和見菌を味方に付けている状態では、腸内は酸性を保ち悪玉菌は増殖できません。その結果として毒性物質が作られなくなります。しかしそんな悪玉菌も実は必要不可欠な存在なのです。その働きとは、肉類などのタンパク質を分解して、便として処理、排泄するという動物にとってなくてはならないものです。
というわけで、理想的には腸内のバランスを常に保っていたいところではありますが、なかなかそうはいかないのが現実です。特に高脂肪の食事がバランスを崩す大きな原因です。要は、腸内環境は食べたものに大きく左右されるため、腸内フローラをよいバランスで維持するためには、栄養バランスのとれた食事が大切です。また食事だけではなく、適度な運動は腸内フローラが活性化するといわれています。当たり前のことほど継続は難しいものです。
■ 土と内臓
2016年に著された「土と内臓」(デイビット・モントゴメリー、アン・ビクレー共著)は土壌微生物と植物の根の関係が、ヒトの腸内細菌と腸の関係に似ているとして微生物の重要性を指摘して注目されました。同著の後半では、癌を患った著者が食生活を改善して自分の庭で育てた野菜を食べていく過程で、自分のからだと土とが似ていくことに気が付き、そこにはいずれも微生物の働きがあるということが書かれています。
現代人の土離れのせいか私にとってはとてもインパクトのある作品でしたが、実は古代ギリシャの哲学者アリストテレスはミミズのことを「大地の腸(はらわた)」と呼んだり、ダーウィンは2000年以上も前からミミズを研究し、実はそのころから土と腸の類似は広く知られているのです。
■ 食料サプライチェーンの弊害がもたらす健康への影響
翔栄ファームのコラムでは比較的高い頻度で現代の食糧サプライチェーン、特に食料生産の方法について、環境破壊に大きな影響を及ぼしているということに言及してきました。そしてそれは事実であるばかりでなく、私たち一消費者の健康へも大きな悪影響を及ぼしかねません。地球からは健全な表土が失われ、土中の微生物が激減し、広大な砂漠化が現在進行形で広がっています。そしてこれらを取り繕うかのように化学肥料や抗生物質、肥育ホルモンなどが多用されると同時に、遺伝子工学の更なる発達により、私たちが摂取する食物は本来の自然が育む栄養素やエネルギーとは恐らく別物になってしまっているはずです。
つまり「土と内臓」の文脈に現状を当てはめてみるならば、地球上の表土から微生物が失われている、あるいは表土が荒廃しているのならば、私たちの腸内フローラもこの状況に類似しているということになります。
逆も然りだと思うのです。自分の腸内フローラのバランスを保つことが地球上の表土に良い影響を与えられるかもしれません。つまり環境破壊に愁いがあるのであれば、自分の正しい食生活によって自分の健康を守る責任があるということなのです。
以前のコラムで、荒れた大地の再生が容易でないように、一度乱れた腸内細菌叢のバランスを戻すことも、そう簡単ではありません。と書きました。やはり日々の積み重ねが全てなのかもしれません。
参考:
「土と内臓」(デイビット・モントゴメリー、アン・ビクレー共著)片岡夏実・訳(築地書館)
「WIRED vol.40」プレジデント社刊
公益財団法人長寿科学振興財団「腸内細菌叢(腸内フローラ)とは」