【農場全体を食べることが大切です(前編)】
では“Farm to Table”の流れの中で実践されている、
地産地消やオーガニック
(ここでは栽培方法のことではなく自然食材全般のこと)
に対する意識は高まっているものの、
消費者や料理人である“人間”の欲望により
農作物が生産・消費され続けるのであれば、
それは“自然のつまみ食い”に過ぎず、
生態系の持続可能性を実現するには、
まだまだ何かが足りないという話をしてきました。
そしてそれが「拡張生態系」であると予告しましたので、
後編はここから始めていきたいと思います。
■ 拡張生態系とは
「拡張生態系」をかなり単純に述べるとすれば、
食べることで自然に介入し、環境を再生していくようなリジェネラティブな作物生産と食の在り方
といえるかもしれません。
因みにリジェネラティブ(または~~農業)とは、
農地の土壌をただ健康的に保つのではなく、人間が介入することで土壌を修復・改善しながら自然環境の回復に繋げることを目指すこと、またはそれを目指す農業のこと
です。
「拡張生態系」のポイントは
人間が介在することで自然状態を超えて
目的に応じた全体最適化がなされるという点です。
イメージとしては、ハチが生態系において
花粉媒介者の役割を果たすように、
人間の介在により生態系が豊かになる、
あるいは自然との共存関係が高まることに
つながるという感じです。
もちろん実例もあります。
ご存じの方も多いと思いますが、
ワインの栓として使用されるコルクがその代表例です。
コルクに使われる「コルク樫」の木は、
収穫のために樹皮を剥がされたほうが
結果として木の長生につながるのです。
これは明らかに人間の介在による「拡張」の結果です。
そして「拡張」を農作物栽培に当てはめてみると、
この土地で、この時期に、この作物を育てることで、
この土地の生物多様性が豊かになり、
土壌中の物質循環(フロー)が促進されるということです。
しかしそこには条件があります。
すでにお気づきのように、
栽培する作物は人間が決めるのではなく、
そこの自然環境に今必要なものである必要があります。
つまり栽培物はそこの土壌が決めるのです。
■ 健全で豊かな表土とは
地球環境にとって最も重要なことの一つは
「健全で豊かな表土」を作り上げ、
それを維持し続けることです。
あるいは自然と再接続することです。
ここでいう「健全で豊かな表土」とは、
多様な微生物が自発的に共生関係を作っている土壌のことです。
前編でも触れましたが、このような表土(土壌)では
土壌中の物質循環(フロー)が活性しています。
そしてそのフローの活性は多種多様な微生物や動物、
昆虫によるものであることはいうまでもありません。
従来の農業では、どちらかというと
土中の栄養素の貯蓄(ストック)を増やすことを目標に
(有機・無機、自然由来・化学問わず)
肥料の投入に重きをおいて農作物を栽培してきました。
もちろんその農場にふさわしい自然由来の有機肥料を
適切に使用することは大切なことではありますが、
ここに盲点があるとすればそれは次のようなことになります。
たとえストック(栄養素の貯蓄)が小さくてもフロー(土壌中の物質循環)の回転が速く大きいのであれば強壮な生態系は育つということです。
例えば一般的に熱帯雨林の表土はやせていて
ストックがほとんどありません。
しかし高い気温と豊富な降水量でフローが最大化されるため、
豊かな土壌機能が維持されているのです。
■ なぜ植物が生態系の一次生産を担うのか?
というわけで、ここまでは地球環境の改善を図るために、
土中のフローを活性化することで
地球資源を損なうことなく農作物を栽培していこう的な、
農業の在り方について話を進めて参りましたが、
実は生態系(ここでは農場)の一次生産を担っているのは
植物であることをご存じでしょうか?
何を言っているのかというと、
まず、微生物が土壌機能の多様化を担っている、
これは間違いありません。
しかしこれらを養うための有機物は、
植物が太陽エネルギーを変換することにより
生み出されているのです。
そしてこれを食べるのは動物や昆虫もしかりで、
これらの排泄物や死骸が更に微生物のための食糧となり、
土中の循環の活性につながっていきます。
これをフローといっているのです。
つまり健全で豊かな表土を作り出すために、
植物は必要不可欠なツールであるばかりでなく、
生態系の一次生産者でもあることにも注目するべきなのです。
つまり冒頭で述べたように、「拡張生態系」とは、
人間の介入により土壌を修復・改善しながら
自然環境の回復に繋げることを目指すことであり、
それは“食べることで自然に介入していくこと”そのものです。
これが地球環境と共存する農業の具体的実践方法です。
■ 輪作の重要性
もちろん重要ないくつかのポイントがあるのですが、
その話の前に絶対やってはいけないこと、
いわゆる農業の原罪といえるものは、
「単一栽培」と「土壌の劣化」です。
今回は施肥による土壌の劣化についてではなく、
「単一栽培」にフォーカスしますが、
ご承知の通り、土壌には
膨大な種類と数の微生物が存在しています。
「単一栽培」はこの多様性を破壊し、
結果的に土壌を劣化させてしまいます。
仮にその土地の伝統野菜を無農薬・無施肥で栽培し続けたとしても
それが「単一栽培」であれば、それは残念ながら
単なる人間の欲望主導の自然のつまみ食いに他なりません。
ではどうするべきなのか。
答えの一つは小見出しにあるように「輪作」です。
例えば、ある地域では、大豆や小麦を栽培する際に、
輪作の作物として必ず蕎麦を挟み込みます。
その地域の中心食物が大豆と小麦だったとしてもです。
つまりその地域の人が蕎麦を食べることにより、
その土地の健全さや豊さが維持されます。
これはまさに“農場全体を食べること”です。
【農場全体を食べることが大切です(前編)】で登場した
料理人のダン・バーバーが著した「The Third Plate」、
「第三の皿」とは、消費者に合わせて生産したものではなく、
自然を再生するために育てられたものを食べることで、
それが生産されるシステム全体を食べることでもあるのです。
(「農場全体を食べることが大切です(後編)」終わり)
【農場全体を食べることが大切です(前編)】では“Farm to Table”の流れの中で実践されている、地産地消やオーガニック(ここでは栽培方法のことではなく自然食材全般のこと)に対する意識は高まっているものの、消費者や料理人である“人間”の欲望により農作物が生産・消費され続けるのであれば、それは“自然のつまみ食い”に過ぎず、生態系の持続可能性を実現するには、まだまだ何かが足りないという話をしてきました。
そしてそれが「拡張生態系」であると予告しましたので、後編はここから始めていきたいと思います。
■ 拡張生態系とは
「拡張生態系」をかなり単純に述べるとすれば、
食べることで自然に介入し、環境を再生していくようなリジェネラティブな作物生産と食の在り方
といえるかもしれません。
因みにリジェネラティブ(または~~農業)とは、
農地の土壌をただ健康的に保つのではなく、人間が介入することで土壌を修復・改善しながら自然環境の回復に繋げることを目指すこと、またはそれを目指す農業のこと
です。
「拡張生態系」のポイントは人間が介在することで自然状態を超えて目的に応じた全体最適化がなされるという点です。イメージとしては、ハチが生態系において花粉媒介者の役割を果たすように、人間の介在により生態系が豊かになる、あるいは自然との共存関係が高まることにつながるという感じです。
もちろん実例もあります。ご存じの方も多いと思いますが、ワインの栓として使用されるコルクがその代表例です。コルクに使われる「コルク樫」の木は、収穫のために樹皮を剥がされたほうが結果として木の長生につながるのです。
これは明らかに人間の介在による「拡張」の結果です。そして「拡張」を農作物栽培に当てはめてみると、この土地で、この時期に、この作物を育てることで、この土地の生物多様性が豊かになり、土壌中の物質循環(フロー)が促進されるということです。
しかしそこには条件があります。すでにお気づきのように、栽培する作物は人間が決めるのではなく、そこの自然環境に今必要なものである必要があります。つまり栽培物はそこの土壌が決めるのです。
■ 健全で豊かな表土とは
地球環境にとって最も重要なことの一つは「健全で豊かな表土」を作り上げ、それを維持し続けることです。あるいは自然と再接続することです。ここでいう「健全で豊かな表土」とは、多様な微生物が自発的に共生関係を作っている土壌のことです。
前編でも触れましたが、このような表土(土壌)では土壌中の物質循環(フロー)が活性しています。そしてそのフローの活性は多種多様な微生物や動物、昆虫によるものであることはいうまでもありません。
従来の農業では、どちらかというと土中の栄養素の貯蓄(ストック)を増やすことを目標に(有機・無機、自然由来・化学問わず)肥料の投入に重きをおいて農作物を栽培してきました。もちろんその農場にふさわしい自然由来の有機肥料を適切に使用することは大切なことではありますが、ここに盲点があるとすればそれは次のようなことになります。
たとえストック(栄養素の貯蓄)が小さくてもフロー(土壌中の物質循環)の回転が速く大きいのであれば強壮な生態系は育つということです。
例えば一般的に熱帯雨林の表土はやせていてストックがほとんどありません。しかし高い気温と豊富な降水量でフローが最大化されるため、豊かな土壌機能が維持されているのです。
■ なぜ植物が生態系の一次生産を担うのか?
というわけで、ここまでは地球環境の改善を図るために、土中のフローを活性化することで地球資源を損なうことなく農作物を栽培していこう的な、農業の在り方について話を進めて参りましたが、実は生態系(ここでは農場)の一次生産を担っているのは植物であることをご存じでしょうか?
何を言っているのかというと、まず、微生物が土壌機能の多様化を担っている、これは間違いありません。しかしこれらを養うための有機物は、植物が太陽エネルギーを変換することにより生み出されているのです。そしてこれを食べるのは動物や昆虫もしかりで、これらの排泄物や死骸が更に微生物のための食糧となり、土中の循環の活性につながっていきます。これをフローといっているのです。
つまり健全で豊かな表土を作り出すために、植物は必要不可欠なツールであるばかりでなく、生態系の一次生産者でもあることにも注目するべきなのです。
つまり冒頭で述べたように、「拡張生態系」とは、人間の介入により土壌を修復・改善しながら自然環境の回復に繋げることを目指すことであり、それは“食べることで自然に介入していくこと”そのものです。
これが地球環境と共存する農業の具体的実践方法です。
■ 輪作の重要性
もちろん重要ないくつかのポイントがあるのですが、その話の前に絶対やってはいけないこと、いわゆる農業の原罪といえるものは、「単一栽培」と「土壌の劣化」です。
今回は施肥による土壌の劣化についてではなく、「単一栽培」にフォーカスしますが、ご承知の通り、土壌には膨大な種類と数の微生物が存在しています。「単一栽培」はこの多様性を破壊し、結果的に土壌を劣化させてしまいます。仮にその土地の伝統野菜を無農薬・無施肥で栽培し続けたとしてもそれが「単一栽培」であれば、それは残念ながら単なる人間の欲望主導の自然のつまみ食いに他なりません。
ではどうするべきなのか。答えの一つは小見出しにあるように「輪作」です。例えば、ある地域では、大豆や小麦を栽培する際に、輪作の作物として必ず蕎麦を挟み込みます。その地域の中心食物が大豆と小麦だったとしてもです。
つまりその地域の人が蕎麦を食べることにより、その土地の健全さや豊さが維持されます。これはまさに“農場全体を食べること”です。
【農場全体を食べることが大切です(前編)】で登場した料理人のダン・バーバーが著した「The Third Plate」、「第三の皿」とは、消費者に合わせて生産したものではなく、自然を再生するために育てられたものを食べることで、それが生産されるシステム全体を食べることでもあるのです。
(「農場全体を食べることが大切です(後編)」終わり)
参照資料
プレジデント社刊「WIRED VOL.40 “FOOD”」
ダン・バーバー著「The Third Plate」