翔栄ファームのコラムは、農業や食品に関連する
様々なキーワードの解説を通じて、
一般消費者の食品選択時の一助となるべく、
一人でも多くの方に必要最低限の知識を
身に付けていただくことを目指しています。
特に残留農薬や化学物質、遺伝子組換え食品
といった領域においては、これらが市場に
蔓延しつつある現状に警鐘を促し、
消費者の自由かつ最良な判断につながるように、
可能な限りニュートラルな立場で
コンテンツの提供を行っています。
その一環として最近のコラムでは畜産物における
これらの農作物の間接的な影響、あるいは
見えづらい実態について情報発信をしてきました。
「食品表示にも落とし穴が存在するのです」
「ヴィーガン(ビーガン)と環境問題」
つまり、「飼料」がどのようなもので、
どう栽培されてきたかということと、
そもそもどのような種であるのか、
ということにフォーカスをしてきたのです。
しかし今回のコラムでは、畜産物自体に投与され
直接的な影響が出ると思われる、
「肥育ホルモン剤」について
触れていきたいと思います。
■ 「ホルモン」とは?
「ホルモン」という言葉は
比較的身近なものかもしれません。
「ホルモンバランス」や「ホルモン焼き」など
がすぐに思い浮かびます。もちろん、
ここでのホルモンは焼き肉の話ではありません。
そもそもホルモンは内臓を指す言葉ではなく、
生物の体内で生成される
特定の生理作用を持った物質です。
まさにホルモンバランスが崩れると
体調や精神に影響を及ぼすように、
非常にデリケートなものです。
そしてホルモンは、成長や、
たんぱく質生成を促進する作用を持っています。
■ 「肥育ホルモン」の働き
このホルモンの働きを外部から調整する目的で、
畜産や獣医療用に作られたものが
「肥育ホルモン剤」なのです。
肥育ホルモンには、天然型ホルモン剤と
合成型ホルモン剤があります。
そして畜産における働きは、「成長が促進される」
ということと「赤身肉が増える」ということです。
天然型ホルモン剤は、本来生物が持つ
ホルモンを使用して作った製剤で、
「17βエストラジオール」「プロゲステロン」
「テストステロン」などを指します。
一方、合成型ホルモン剤は、
“本来生物には存在しない”
ホルモンを使用して作られた、
「酢酸トレンボロン」「メレンゲステロール」
「ゼラノール」等のことです。
因みに日本では「肥育を早める」目的での
肥育ホルモン剤の使用は認められていません。
あくまでも家畜の繁殖障害の治療等といった
獣医療に限定されています。
■ 輸入牛肉はどうなのか?
しかし、お察しの通り「輸入牛肉」
となると状況は一変します。
私たちが普段口にする機会が多い(であろう)
アメリカ牛やオーストラリア牛ではそうはいきません。
とはいえ基準はもちろん存在しますので、
先ずはこのあたりの話から。
肥育ホルモン剤の残留基準値(MRL)は、
国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が
合同で作成している食品の国際標準規格である
CODEXとして規定されています。
因みに日本では毎年、CODEXとは別に定めた
独自の残留基準値をベースに
輸入牛肉の残留農薬調査を実施しています。
では実際の肥育ホルモン剤の使用状況について
アメリカを中心に見ていきたいと思います。
■ 海外の肥育ホルモン剤の使用状況
アメリカでは天然型ホルモン剤の
残留基準値は一部設定されていますが、
その他の国は不要の場合が多く、
使用については比較的緩い印象があります。
一方、合成型ホルモン剤の残留基準値は、
アメリカとオーストラリアはCODEXの基準を
やや上回っているだけではなく、
アメリカは「トレンボロン」「ゼラノール」については
基準値の設定を不要とし、オーストラリアではCODEXの
およそ倍であるのが現状のようです。
しかしEUは全く異なり、
潜在的リスクの可能性を重く見るがゆえに、
肥育ホルモン剤の使用ならびに、それらが使用された
牛肉・牛肉製品の輸入を禁止しています。
実際にEUはアメリカ牛の輸入を
1989年以来一貫して禁止しています。
■ 日本人一人当たりの牛肉消費量66%は輸入牛肉
肥育ホルモン剤の健康被害の
直接的影響については不明確であり、
化学的には基準値を守っていれば
人体への影響はないとされています。
しかしアメリカ国内では、
合成農薬や化学肥料を使わない有機飼料で牛を育て、
飼育ホルモン剤の投与も禁止した牛肉が大人気です。
そしてグラスフェッドとなると尚更のようです。
最近日本にも進出してきた「成長剤、ホルモン剤、
抗生物質不使用」の生産者からしか仕入をしない
という某ハンバーガーチェーンは
アメリカで大きく受け入れられています。
この状況から見て取れることは、
アメリカでは国内消費用の一部と
それ以外のもの(輸出用含む)では
生産物の質に大きな違いがあるのは間違いなく、
少なくとも輸出用牛肉の多くが
日本に向けられているのは事実です。
因みに日本人一人当たりの牛肉消費量を
国産・輸入の合計で平均化すると、
66%が輸入牛肉という計算になります。
また、トウモロコシのような農作物についても、
余剰分を日本が受け入れる構造が、
残念ではありますが存在しているように思えます。
実際に2019年8月にはトウモロコシを
アメリカから緊急輸入したことは
記憶に新しいのではないでしょうか
(翔栄ファームのコラムでも
このテーマを扱っていますので
よろしければご覧ください)。
「日本、米産余剰トウモロコシ輸入へ」
■ やはり基本は国産を推奨します
食に関する知識が増えれば増えるほど、
食べられる領域が狭まっていくようで
息苦しくなるのは事実です。
そして物量的、経済的、周辺地域状況により、
常に完全なものを入手することは困難です。
そこで牛肉の購入に関して
最低限気を付けるべきことは何であるか。
もちろん厳密には様々な条件がありますが、
最低限という意味においては
とにかく「国産」であるということが重要に思います。
ただし内臓は避けることが無難です
(生育環境、飼料、トレーサビリティーに
安心安全が担保されている場合は除く)。
理由は、飼料の残留農薬、抗生剤、
ホルモン剤は内臓に溜まりやすいためです。
とはいえ、
国産が難しい場合は輸入牛となるわけですが、
とにかく脂身のない赤身のみが好ましく、
味付け加工品や牛以外の輸入肉(加工品含む)は
極力避けた方がいいのではないかと筆者は考えます。
もちろんこのようなことは
個人の自由であるわけですが、
輸入牛に肥育ホルモン剤が投与されていること、
そして、いくら化学的なリスク評価として
安全性が確認されているといったところで、
それはあくまでも「適正な分量を投与している
(しているなら)」という前提の話です。
あくまでも邪推に過ぎませんが、
飼育現場においては投与量を間違う
(あるいは変える)リスクがないとも限りません。
翔栄ファームのコラムは、農業や食品に関連する様々なキーワードの解説を通じて、一般消費者の食品選択時の一助となるべく、一人でも多くの方に必要最低限の知識を身に付けていただくことを目指しています。
特に残留農薬や化学物質、遺伝子組換え食品といった領域においては、これらが市場に蔓延しつつある現状に警鐘を促し、消費者の自由かつ最良な判断につながるように、可能な限りニュートラルな立場でコンテンツの提供を行っています。
その一環として最近のコラムでは畜産物におけるこれらの農作物の間接的な影響、あるいは見えづらい実態について情報発信をしてきました。
「食品表示にも落とし穴が存在するのです」https://syouei-farm.net/anzen/201027/
「ヴィーガン(ビーガン)と環境問題」https://syouei-farm.net/anzen/201006/
つまり、「飼料」がどのようなもので、どう栽培されてきたかということと、そもそもどのような種であるのか、ということにフォーカスをしてきたのです。しかし今回のコラムでは、畜産物自体に投与され直接的な影響が出ると思われる、「肥育ホルモン剤」について触れていきたいと思います。
■ 「ホルモン」とは?
「ホルモン」という言葉は比較的身近なものかもしれません。「ホルモンバランス」や「ホルモン焼き」などがすぐに思い浮かびます。もちろん、ここでのホルモンは焼き肉の話ではありません。
そもそもホルモンは内臓を指す言葉ではなく、生物の体内で生成される特定の生理作用を持った物質です。まさにホルモンバランスが崩れると体調や精神に影響を及ぼすように、非常にデリケートなものです。そしてホルモンは、成長や、たんぱく質生成を促進する作用を持っています。
■ 「肥育ホルモン」の働き
このホルモンの働きを外部から調整する目的で、畜産や獣医療用に作られたものが「肥育ホルモン剤」なのです。肥育ホルモンには、天然型ホルモン剤と合成型ホルモン剤があります。そして畜産における働きは、「成長が促進される」ということと「赤身肉が増える」ということです。
天然型ホルモン剤は、本来生物が持つホルモンを使用して作った製剤で、「17βエストラジオール」「プロゲステロン」「テストステロン」などを指します。
一方、合成型ホルモン剤は、“本来生物には存在しない”ホルモンを使用して作られた、「酢酸トレンボロン」「メレンゲステロール」「ゼラノール」等のことです。
因みに日本では「肥育を早める」目的での肥育ホルモン剤の使用は認められていません。あくまでも家畜の繁殖障害の治療等といった獣医療に限定されています。
■ 輸入牛肉はどうなのか?
しかし、お察しの通り「輸入牛肉」となると状況は一変します。
私たちが普段口にする機会が多い(であろう)アメリカ牛やオーストラリア牛ではそうはいきません。とはいえ基準はもちろん存在しますので、先ずはこのあたりの話から。
肥育ホルモン剤の残留基準値(MRL)は、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が合同で作成している食品の国際標準規格であるCODEXとして規定されています。
因みに日本では毎年、CODEXとは別に定めた独自の残留基準値をベースに輸入牛肉の残留農薬調査を実施しています。
では実際の肥育ホルモン剤の使用状況についてアメリカを中心に見ていきたいと思います。
■ 海外の肥育ホルモン剤の使用状況
アメリカでは天然型ホルモン剤の残留基準値は一部設定されていますが、その他の国は不要の場合が多く、使用については比較的緩い印象があります。
一方、合成型ホルモン剤の残留基準値は、アメリカとオーストラリアはCODEXの基準をやや上回っているだけではなく、アメリカは「トレンボロン」「ゼラノール」については基準値の設定を不要とし、オーストラリアではCODEXのおよそ倍であるのが現状のようです。
しかしEUは全く異なり、潜在的リスクの可能性を重く見るがゆえに、肥育ホルモン剤の使用ならびに、それらが使用された牛肉・牛肉製品の輸入を禁止しています。実際にEUはアメリカ牛の輸入を1989年以来一貫して禁止しています。
■ 日本人一人当たりの牛肉消費量66%は輸入牛肉
肥育ホルモン剤の健康被害の直接的影響については不明確であり、化学的には基準値を守っていれば人体への影響はないとされています。
しかしアメリカ国内では、合成農薬や化学肥料を使わない有機飼料で牛を育て、飼育ホルモン剤の投与も禁止した牛肉が大人気です。そしてグラスフェッドとなると尚更のようです。
最近日本にも進出してきた「成長剤、ホルモン剤、抗生物質不使用」の生産者からしか仕入をしないという某ハンバーガーチェーンはアメリカで大きく受け入れられています。
この状況から見て取れることは、アメリカでは国内消費用の一部とそれ以外のもの(輸出用含む)では生産物の質に大きな違いがあるのは間違いなく、少なくとも輸出用牛肉の多くが日本に向けられているのは事実です。
因みに日本人一人当たりの牛肉消費量を国産・輸入の合計で平均化すると、66%が輸入牛肉という計算になります。
また、トウモロコシのような農作物についても、余剰分を日本が受け入れる構造が、残念ではありますが存在しているように思えます。実際に2019年8月にはトウモロコシをアメリカから緊急輸入したことは記憶に新しいのではないでしょうか(翔栄ファームのコラムでもこのテーマを扱っていますのでよろしければご覧ください)。
「日本、米産余剰トウモロコシ輸入へ」https://syouei-farm.net/anzen/190910/
■ やはり基本は国産を推奨します
食に関する知識が増えれば増えるほど、食べられる領域が狭まっていくようで息苦しくなるのは事実です。そして物量的、経済的、周辺地域状況により、常に完全なものを入手することは困難です。
そこで牛肉の購入に関して最低限気を付けるべきことは何であるか。
もちろん厳密には様々な条件がありますが、最低限という意味においてはとにかく「国産」であるということが重要に思います。ただし内臓は避けることが無難です(生育環境、飼料、トレーサビリティーに安心安全が担保されている場合は除く)。理由は、飼料の残留農薬、抗生剤、ホルモン剤は内臓に溜まりやすいためです。
とはいえ、国産が難しい場合は輸入牛となるわけですが、とにかく脂身のない赤身のみが好ましく、味付け加工品や牛以外の輸入肉(加工品含む)は極力避けた方がいいのではないかと筆者は考えます。
もちろんこのようなことは個人の自由であるわけですが、輸入牛に肥育ホルモン剤が投与されていること、そして、いくら化学的なリスク評価として安全性が確認されているといったところで、それはあくまでも「適正な分量を投与している(しているなら)」という前提の話です。
あくまでも邪推に過ぎませんが、飼育現場においては投与量を間違う(あるいは変える)リスクがないとも限りません。