IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)が
2021年8月9日に公表した最新報告書の中には
以下のような記述があります。
【人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことは「疑う余地がない」。大気、海洋、雪氷圏において、広範囲かつ急速に変化が現れている】
IPCCの報告書は毎年公表されていますが、
2001年~2006年では「人間の影響の可能性が高い」、
2007年~2012年では「可能性が非常に高い」、
2013年~2020年では「可能性が極めて高い」
となっていました。
しかし今年はとうとう「疑う余地がない」となり、
不確実性の表現が完全に消えたことは特筆に値します。
つまり気候変動は人間の仕業であると
世界が認めたということです。
■ 農林業による温室効果ガス排出量
地球温暖化の主な原因とされる温室効果ガス。
ご存じのようにその総排出量の24%は
農林業によるものだと言われています。
この数値だけを見ると
「いかに温室効果ガスの排出量を減らせるか」
という議論だけに偏りがちですが、
もう一つの重要な側面として存在する
「世界を食料不足に陥らせることのないように」
というミッションがあることを
決して忘れてはいけません。
(日本ではこの意識が希薄です)
■ ”ナチュラル”という言葉の定義
ところで、様々な食品や日用品には“ナチュラル”や
“天然”という言葉が使われることがあります。
「天然素材100%」「ナチュラルなオーガニック食品」、
とまあこんな感じです。
特に食品にこれらのワードが使用されていると
私たちはついつい環境への配慮も意味している
と思い込む傾向がありますが、
残念ながら食品ラベルやパッケージが環境への配慮、
特に気候変動への関係について何も語っていません。
もちろんオーガニック認証を受けた食品であれば
特定の化学肥料を使わないことで
亜酸化窒素の発生を抑えるとか、
慣行農法と比べて土壌の劣化を防ぐ
といった効果はあると思いますが、
これが一般的に通用するのは、
非常に小規模な営農においてのみであり、
大規模農業においては当てはまらないケースがほとんどです。
この後、理由を述べたいと思います。
■ 大規模オーガニック農業の弊害
その前に改めて翔栄ファームの農業について
ご説明をしておきたいと思います。
私たちは固定種・在来種のみの自然栽培を行っており
自家採種100%を目指している集団です。
これが揺らぐことはありません。
ではなぜこのタイミングで確認しているかというと、
これからお話することは、あくまでも
世界的な環境破壊下において、これ以上の悪化を防ぎつつ、
世界人口への食糧供給をいかに両立させるかという、
気候変動を真剣に捉える農業者の取組事例であり、
翔栄ファームの活動ではないということ
(もちろん翔栄ファームも気候変動を真剣に捉えています)
を明確にしておく必要があるためです。
あくまでも世界的な農業を取り巻く
状況レポートとして捉えてください。
ということで本筋に戻ります。
無農薬・無化学肥料栽培はもちろんのこと
有機栽培は従来型農業(慣行農業)と比較した場合、
圧倒的に収量が減ってしまいます。
よって従来型農業における収量を
有機栽培で実現しようとした場合、
数倍の面積の耕作地を確保する必要があるのです。
そしてこの耕作地を確保するために
ほぼすべての場合で森林が切り開かれます。
つまり二酸化炭素の貴重な吸収源が
逆に排出源になってしまっているのです。
これが大規模オーガニック農業の弊害ということは
頭の片隅に入れておく必要があります。
“ナチュラル”や“天然”と書かれた食品ラベルが
気候変動については何も語らない背景でもあります。
■ ”気候変動対応”という隠れ蓑
日本で気候変動や温暖化による影響となると、
真っ先に頻発する大雨や台風を
思い浮かべるのではないでしょうか。
もちろんこのような現象は日本以外にもみられます。
しかし食料供給という観点で気候変動を見た場合、
最も深刻な問題は干ばつです。
つまり世界全体では水が不足しているのです。
このような現状下においては
干ばつ耐性を備えた品種改良、
平たく言えば遺伝子組換え作物は
これからどんどん増えることでしょう。
そして自給率の低い日本においては、
“気候変動対応作物”などと称し、
あたかも環境保全一色のようなブランディングで
日常生活に入り込んでくることは目に見えています。
干ばつと闘う農業従事者の苦労や
創意工夫には頭が下がる思いですが、
これでは本質的な改善にはならないと思うのです。
最も重要なことはやはりフードシステムそのものを
見直すことではないでしょうか。
■ 気候変動対応型品種
とはいえ参考までに
少しだけ具体的な気候変動対応型品種について
見ていきたいと思います。
先ず既述の干ばつ耐性品種です。
すでに北米では干ばつに強い
遺伝子組換えトウモロコシが栽培されていますし、
米国やブラジル、パラグアイ、アルゼンチンでは
干ばつ耐性のある大豆が承認されています。
一方、冠水に強いイネ「Sub1」というものも誕生しています。
通常イネは根が水に浸かっていて、
葉は水面上に出た状態で栽培されます。
なぜならば洪水等で全体が水に浸かると
イネは死んでしまうからです。
このSub1というイネは、
「冠水には強いが収穫量の少ないイネ」と
「冠水耐性はないが収穫量の多い品種」を
交配することで出来上がった洪水に強い品種です。
その他、精度の高いゲノム編集技術も登場しています。
干ばつや気温上昇への耐性の強いもの、
あるいは収穫量を格段に増やすことで
結果的に耕作地面積あたりの
温室効果ガスの排出量を減らすもの、
また温暖化によって生じる
新たな病害虫にも対処できる品種など、
気候変動に対応したゲノム編集作物の開発も
盛んに行われています。
■ 食物選択は自己責任
以上、「地球環境破壊下における世界的農業の現状」と題して
世界レベルでの食料生産のいくつかの事象を見てきましたが
置かれた立場によってそれぞれの従事者が
気候変動にどのように対応すべきかを
真剣に考え取組んでいることは事実です。
しかし決して忘れてはいけないことがあるとすれば、
それは地球と私たち人間をはじめとした
全ての生物の健康ではないでしょうか。
この健康の実現においては
不自然なことやものは全て取り除かれるべきだと思うのです。
そのためには正しい知識が必要であることは言うまでもありません。
IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)が2021年8月9日に公表した最新報告書の中には以下のような記述があります。
【人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことは「疑う余地がない」。大気、海洋、雪氷圏において、広範囲かつ急速に変化が現れている】
IPCCの報告書は毎年公表されていますが、2001年~2006年では「人間の影響の可能性が高い」、2007年~2012年では「可能性が非常に高い」、2013年~2020年では「可能性が極めて高い」となっていました。しかし今年はとうとう「疑う余地がない」となり、不確実性の表現が完全に消えたことは特筆に値します。つまり気候変動は人間の仕業であると世界が認めたということです。
■ 農林業による温室効果ガス排出量
地球温暖化の主な原因とされる温室効果ガス。ご存じのようにその総排出量の24%は農林業によるものだと言われています。この数値だけを見ると「いかに温室効果ガスの排出量を減らせるか」という議論だけに偏りがちですが、もう一つの重要な側面として存在する「世界を食料不足に陥らせることのないように」というミッションがあることを決して忘れてはいけません(日本ではこの意識が希薄です)。
■ ”ナチュラル”という言葉の定義
ところで、様々な食品や日用品には“ナチュラル”や“天然”という言葉が使われることがあります。「天然素材100%」「ナチュラルなオーガニック食品」、とまあこんな感じです。特に食品にこれらのワードが使用されていると私たちはついつい環境への配慮も意味していると思い込む傾向がありますが、残念ながら食品ラベルやパッケージが環境への配慮、特に気候変動への関係について何も語っていません。
もちろんオーガニック認証を受けた食品であれば特定の化学肥料を使わないことで亜酸化窒素の発生を抑えるとか、慣行農法と比べて土壌の劣化を防ぐといった効果はあると思いますが、これが一般的に通用するのは、非常に小規模な営農においてのみであり、大規模農業においては当てはまらないケースがほとんどです。
この後、理由を述べたいと思います。
■ 大規模オーガニック農業の弊害
その前に改めて翔栄ファームの農業についてご説明をしておきたいと思います。私たちは固定種・在来種のみの自然栽培を行っており自家採種100%を目指している集団です。これが揺らぐことはありません。
ではなぜこのタイミングで確認しているかというと、これからお話することは、あくまでも世界的な環境破壊下において、これ以上の悪化を防ぎつつ、世界人口への食糧供給をいかに両立させるかという、気候変動を真剣に捉える農業者の取組事例であり、翔栄ファームの活動ではないということ(もちろん翔栄ファームも気候変動を真剣に捉えています)を明確にしておく必要があるためです。
あくまでも世界的な農業を取り巻く状況レポートとして捉えてください。
ということで本筋に戻ります。
無農薬・無化学肥料栽培はもちろんのこと有機栽培は従来型農業(慣行農業)と比較した場合、圧倒的に収量が減ってしまいます。よって従来型農業における収量を有機栽培で実現しようとした場合、数倍の面積の耕作地を確保する必要があるのです。
そしてこの耕作地を確保するためにほぼすべての場合で森林が切り開かれます。つまり二酸化炭素の貴重な吸収源が逆に排出源になってしまっているのです。
これが大規模オーガニック農業の弊害ということは頭の片隅に入れておく必要があります。“ナチュラル”や“天然”と書かれた食品ラベルが気候変動については何も語らない背景でもあります。
■ ”気候変動対応”という隠れ蓑
日本で気候変動や温暖化による影響となると、真っ先に頻発する大雨や台風を思い浮かべるのではないでしょうか。もちろんこのような現象は日本以外にもみられます。
しかし食料供給という観点で気候変動を見た場合、最も深刻な問題は干ばつです。つまり世界全体では水が不足しているのです。
このような現状下においては干ばつ耐性を備えた品種改良、平たく言えば遺伝子組換え作物はこれからどんどん増えることでしょう。そして自給率の低い日本においては、“気候変動対応作物”などと称し、あたかも環境保全一色のようなブランディングで日常生活に入り込んでくることは目に見えています。
干ばつと闘う農業従事者の苦労や創意工夫には頭が下がる思いですが、これでは本質的な改善にはならないと思うのです。最も重要なことはやはりフードシステムそのものを見直すことではないでしょうか。
■ 気候変動対応型品種
とはいえ参考までに少しだけ具体的な気候変動対応型品種について見ていきたいと思います。
先ず既述の干ばつ耐性品種です。すでに北米では干ばつに強い遺伝子組換えトウモロコシが栽培されていますし、米国やブラジル、パラグアイ、アルゼンチンでは干ばつ耐性のある大豆が承認されています。
一方、冠水に強いイネ「Sub1」というものも誕生しています。通常イネは根が水に浸かっていて、葉は水面上に出た状態で栽培されます。なぜならば洪水等で全体が水に浸かるとイネは死んでしまうからです。
このSub1というイネは、「冠水には強いが収穫量の少ないイネ」と「冠水耐性はないが収穫量の多い品種」を交配することで出来上がった洪水に強い品種です。
その他、精度の高いゲノム編集技術も登場しています。干ばつや気温上昇への耐性の強いもの、あるいは収穫量を格段に増やすことで結果的に耕作地面積あたりの温室効果ガスの排出量を減らすもの、また温暖化によって生じる新たな病害虫にも対処できる品種など、気候変動に対応したゲノム編集作物の開発も盛んに行われています。
■ 食物選択は自己責任
以上、「地球環境破壊下における世界的農業の現状」と題して世界レベルでの食料生産のいくつかの事象を見てきましたが、置かれた立場によってそれぞれの従事者が気候変動にどのように対応すべきかを真剣に考え取組んでいることは事実です。
しかし決して忘れてはいけないことがあるとすれば、それは地球と私たち人間をはじめとした全ての生物の健康ではないでしょうか。この健康の実現においては不自然なことやものは全て取り除かれるべきだと思うのです。そのためには正しい知識が必要であることは言うまでもありません。
参考:
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第 6 次評価報告書
WIRED vol.40(株式会社プレジデント社刊)