地球温暖化と共に語られることの多い農地の砂漠化。
日本ではあまりピンと来ないかもしれませんが、
世界の農地の何と約35%強が、
その役割を果たせないほど劣化して砂漠化しています。
大きな原因は農薬や化学肥料の大量使用による
大規模な工業型農業の世界標準化です。
そしてその根底に潜むものは
経済を優先とした自然(地球)の搾取なのです。
日本では中国から黄砂が飛んできます。
まさにこれが砂漠化進行の一つの事象であり、
中国での砂漠化は今現在も進行し続け
それはすでに北京の手前まで迫っています。
■ 環境破壊の現状
当コラムでは何度もお伝えしていますが、
土は有限なものであり貴重な資源です。
特に地表から20~30センチの表土には
おびただしい数の微生物や生き物が存在し、
それらの生物循環(フロー)により
自然界のバランスが保たれています。
よって表土は農作物を栽培する上で最も大切な財産です。
そして微生物とその働きが豊かな表土には
空気中の二酸化炭素を蓄える働きもあるのです。
健全な土壌は健康な人びとと地球にとっての生命線です。
土壌の劣化は文明そのものを崩壊させるだけの
十分な力を持っています。
これは決して対岸の火事なんかではなく、
農薬大国である日本において、私たちはこれを
切実な大問題であると意識する必要があるのです。
ある企業のwebサイトにはこのように書かれています。
アメリカでは3大化学薬品会社が、すべての種および殺虫剤の75%を支配しており、アメリカだけでも毎年1億3千600万キロの除草剤「ラウンドアップ」が噴霧されています
と。
この量がどれ程のものなのかは正直分かりませんが、
除草剤が土壌の微生物を殺し、
生物循環を機能させなくすることはほぼ疑いの余地はなく、
それにより地中に蓄えられていた
二酸化炭素が大気中に放出され
地球温暖化の一因になっていることもまた事実です。
そして農薬・化学肥料を用いた農業の弊害は
恐らくこれだけではないと思われます。
それは生産者のみに留まらず、
化学薬品を使用して栽培された農作物を扱う
農業従事者の健康被害の増加と、
食料生産の重要なパートナーであり
最も重要な担い手である蜂の減少が、
化学農業の台頭と同時に起きていることは
決して偶然とは思えません。
■ 環境再生農業(リジェネラティブ農業)とは?
このような環境破壊に対する世界的な意識が高まる中で
欧米を中心に環境再生型農業(リジェネラティブ農業)への
注目が集まっています。
環境再生型農業は、
長期間に渡って土壌の修復・改善を促し、
空気中の二酸化炭素を吸収しながら
食料を生産する仕組みのことです。
先進的な農業従事者や環境意識の高い人たちは、
持続可能性を考えるだけでなく、
その先の環境を再生(自然環境の回復)することまで
考えていくことが大事だと言い、
すでにそれを実践に移しています。
また、再生の鍵を握る生物多様性や土壌の健康状態、
プラス適切な畜産の重要性は、
食品にあまり関心を持っていない人や
美食家にもすでに伝わり始めています。
もちろんその背景には
地球温暖化による環境破壊への脅威と
危機意識がベースにあるのは疑いようがなく、
その状況に対する打開策としての環境再生型農業が、
環境や人々の健康を尊重しながら良い変化を起こし、
気候変動に立ち向かう手段になるという認識が
一気に広がっているためです。
いまや地球環境改善のキーワードは
従来のサステイナビリティーではなく、
リジェネレーションに取って代わられています。
■ 環境改善農業の特徴点
営農による環境再生を実現する、
環境再生農業にはいくつかのポイントがありますが
ここでは代表的なものを二点紹介したいと思います。
先ず一つ目は「輪作」。
決して目新しい手法でなく、
むしろ伝統的な栽培方法であるにも関わらず、
工業型または化学農業による栽培作物の固定化により、
世界的に見てもほぼ形骸化されているのが現状です。
しかしいま再び輪作が脚光を浴びている背景には
このような理由があります。
それは同じ土地で異なる作物を
一定の期間をおいて周期的に
栽培する方法(これが輪作)を活用することで、
土中の微生物の働きが特定の種類に偏ることなく
生物循環のバランスを保つと共に、
毎年の耕耘により温室効果ガスを大気に放出せずに
土壌に留める丈夫な根っこを育てることができるためです。
もちろんこれを実践するためには
一年生ではなく多年生の植物あるいは
品種を栽培する必要があります。
つまり「輪作」と「不耕起栽培」は
セットといってもいいでしょう。
とはいえ少しだけ「不耕起栽培」について補足すると、
土を掘り起こさないことで土壌浸食が軽減され、
有機物を多く含む豊かな土壌になるばかりでなく
空気中の炭素をより多く地中に留められるようになるのです。
二つ目は「被覆(ひふく)作物の活用」です。
「被覆作物」とは畑地が風や雨水などによって
侵食されるのを防ぐために植える
地面を覆うように茂る性質のある作物のことです。
例えば、牧草地のクローバーや庭園の芝類などのことです。
いずれも風食や雨食から土壌を守る働きをしています。
環境再生型農業では主作物の休閑期に
土壌浸食防止や雑草の抑制などを目的として、
露出する地面を覆うように被覆作物を植えます。
それにより土壌有機物が増加し、
土壌への炭素隔離が起きやすくなるのです。
その他には「合成肥料の不使用」というポイントがあり、
有機肥料を使用し土壌の健康を改善するとありますが、
有機肥料の具体的な中身とその使用範囲等については、
プレイヤー毎に独自ルールがあるようです。
■ リジェネラティブ・オーガニック認証
世界的アウトドア用品ブランドのパタゴニアでは、
リジェネラティブ農業に関して
先進的な取組を実施しています。
彼らは2017年に他社と協力して
リジェネラティブ・オーガニック認証を制定し、
食品とアパレルの両分野において
認証取得を目指し始めました(現在は取得済み)。
このリジェネラティブ・オーガニック認証の取得には、
まず米農務省のオーガニック基準を満たす必要があります。
加えてフェアトレード認証、
動物福祉認証等の既存の認証を組み合わせていく
世界で最も基準の高いオーガニック認証だといわれています。
ただ、認証システムと聞くと、
どことなくビジネス的あるいは
独占的なニオイがするのは筆者だけではないと思います。
とはいえ地球環境破壊が加速度的に進行している現状では、
強い意志を持った強力なリーダーシップによる
世界的な気づきをもたらす情報発信は、とても重要です。
まだまだ環境再生農業は発展途上だとは思いますが、
このような動きについて、翔栄ファームでは
これからもキャッチアップし続けていきます。
なぜならば我々は土壌を劣化させるのではなく、
自然へのお返しができる農業を
推進していきたいと考えているからです。
最後に非営利団体
「ロデール・インスティチュート」の予測を
紹介して閉じたいと思います。
現存の農地が環境再生型有機農業に移行すれば、世界中の毎年の二酸化炭素排出量の100%を土壌に隔離することができる
地球温暖化と共に語られることの多い農地の砂漠化。日本ではあまりピンと来ないかもしれませんが、世界の農地の何と約35%強が、その役割を果たせないほど劣化して砂漠化しています。大きな原因は農薬や化学肥料の大量使用による大規模な工業型農業の世界標準化です。そしてその根底に潜むものは経済を優先とした自然(地球)の搾取なのです。
日本では中国から黄砂が飛んできます。まさにこれが砂漠化進行の一つの事象であり、中国での砂漠化は今現在も進行し続け、それはすでに北京の手前まで迫っています。
■ 環境破壊の現状
当コラムでは何度もお伝えしていますが、土は有限なものであり貴重な資源です。特に地表から20~30センチの表土にはおびただしい数の微生物や生き物が存在し、それらの生物循環(フロー)により自然界のバランスが保たれています。
よって表土は農作物を栽培する上で最も大切な財産です。そして微生物とその働きが豊かな表土には空気中の二酸化炭素を蓄える働きもあるのです。健全な土壌は健康な人びとと地球にとっての生命線です。
土壌の劣化は文明そのものを崩壊させるだけの十分な力を持っています。これは決して対岸の火事なんかではなく、農薬大国である日本において、私たちはこれを切実な大問題であると意識する必要があるのです。
ある企業のwebサイトにはこのように書かれています。
アメリカでは3大化学薬品会社が、すべての種および殺虫剤の75%を支配しており、アメリカだけでも毎年1億3千600万キロの除草剤「ラウンドアップ」が噴霧されています
と。この量がどれ程のものなのかは正直分かりませんが、除草剤が土壌の微生物を殺し、生物循環を機能させなくすることはほぼ疑いの余地はなく、それにより地中に蓄えられていた二酸化炭素が大気中に放出され地球温暖化の一因になっていることもまた事実です。そして農薬・化学肥料を用いた農業の弊害は恐らくこれだけではないと思われます。
それは生産者のみに留まらず、化学薬品を使用して栽培された農作物を扱う農業従事者の健康被害の増加と、食料生産の重要なパートナーであり最も重要な担い手である蜂の減少が、化学農業の台頭と同時に起きていることは決して偶然とは思えません。
■ 環境再生農業(リジェネラティブ農業)とは?
このような環境破壊に対する世界的な意識が高まる中で欧米を中心に環境再生型農業(リジェネラティブ農業)への注目が集まっています。環境再生型農業は、長期間に渡って土壌の修復・改善を促し、空気中の二酸化炭素を吸収しながら食料を生産する仕組みのことです。先進的な農業従事者や環境意識の高い人たちは、持続可能性を考えるだけでなく、その先の環境を再生(自然環境の回復)することまで考えていくことが大事だと言い、すでにそれを実践に移しています。
また、再生の鍵を握る生物多様性や土壌の健康状態、プラス適切な畜産の重要性は、食品にあまり関心を持っていない人や美食家にもすでに伝わり始めています。
もちろんその背景には地球温暖化による環境破壊への脅威と危機意識がベースにあるのは疑いようがなく、その状況に対する打開策としての環境再生型農業が、環境や人々の健康を尊重しながら良い変化を起こし、気候変動に立ち向かう手段になるという認識が一気に広がっているためです。
いまや地球環境改善のキーワードは従来のサステイナビリティーではなく、リジェネレーションに取って代わられています。
■ 環境改善農業の特徴点
営農による環境再生を実現する、環境再生農業にはいくつかのポイントがありますが、ここでは代表的なものを二点紹介したいと思います。
先ず一つ目は「輪作」。
決して目新しい手法でなく、むしろ伝統的な栽培方法であるにも関わらず、工業型または化学農業による栽培作物の固定化により、世界的に見てもほぼ形骸化されているのが現状です。しかしいま再び輪作が脚光を浴びている背景にはこのような理由があります。
それは同じ土地で異なる作物を一定の期間をおいて周期的に栽培する方法(これが輪作)を活用することで、土中の微生物の働きが特定の種類に偏ることなく生物循環のバランスを保つと共に、毎年の耕耘により温室効果ガスを大気に放出せずに土壌に留める丈夫な根っこを育てることができるためです。
もちろんこれを実践するためには、一年生ではなく多年生の植物あるいは品種を栽培する必要があります。つまり「輪作」と「不耕起栽培」はセットといってもいいでしょう。とはいえ少しだけ「不耕起栽培」について補足すると、土を掘り起こさないことで土壌浸食が軽減され、有機物を多く含む豊かな土壌になるばかりでなく空気中の炭素をより多く地中に留められるようになるのです。
二つ目は「被覆(ひふく)作物の活用」です。
「被覆作物」とは畑地が風や雨水などによって侵食されるのを防ぐために植える、地面を覆うように茂る性質のある作物のことです。例えば、牧草地のクローバーや庭園の芝類などのことです。いずれも風食や雨食から土壌を守る働きをしています。環境再生型農業では主作物の休閑期に土壌浸食防止や雑草の抑制などを目的として、露出する地面を覆うように被覆作物を植えます。それにより土壌有機物が増加し、土壌への炭素隔離が起きやすくなるのです。
その他には「合成肥料の不使用」というポイントがあり、有機肥料を使用し土壌の健康を改善するとありますが、有機肥料の具体的な中身とその使用範囲等については、プレイヤー毎に独自ルールがあるようです。
■ リジェネラティブ・オーガニック認証
世界的アウトドア用品ブランドのパタゴニアでは、リジェネラティブ農業に関して先進的な取組を実施しています。彼らは2017年に他社と協力してリジェネラティブ・オーガニック認証を制定し、食品とアパレルの両分野において認証取得を目指し始めました(現在は取得済み)。このリジェネラティブ・オーガニック認証の取得には、まず米農務省のオーガニック基準を満たす必要があります。加えてフェアトレード認証、動物福祉認証等の既存の認証を組み合わせていく世界で最も基準の高いオーガニック認証だといわれています。
ただ、認証システムと聞くと、どことなくビジネス的あるいは独占的なニオイがするのは筆者だけではないと思います。とはいえ地球環境破壊が加速度的に進行している現状では、強い意志を持った強力なリーダーシップによる世界的な気づきをもたらす情報発信は、とても重要です。
まだまだ環境再生農業は発展途上だとは思いますが、このような動きについて、翔栄ファームではこれからもキャッチアップし続けていきます。なぜならば我々は土壌を劣化させるのではなく、自然へのお返しができる農業を推進していきたいと考えているからです。
最後に非営利団体「ロデール・インスティチュート」の予測を紹介して閉じたいと思います。
現存の農地が環境再生型有機農業に移行すれば、世界中の毎年の二酸化炭素排出量の100%を土壌に隔離することができる
参考:
プレジデント社刊「WIRED VOL.40(マイクロオーガニズム共生基礎ガイド2021)」