前橋農場のK.Mです。
野菜や穀物は、私たちが生活する上で絶対に必要なもの。
食物が本来持っている本当に美味しい自然の恵みや味わいを
多くの方にお楽しみいただきたい。
私も翔栄ファームの仲間たちと、
そんな想いで日々栽培を行っています。
私の前職は、
自然栽培と有機栽培のコーヒー農園で、
アメリカのハワイ州で独立起業し、
経営・運営をしておりました。
いまは日本に舞台を移し、
生産するものがコーヒーから
野菜や穀物となりましたが、
無農薬、無肥料という、前職と変わることない
健康に優しい農業に引き続き携わることができ、
とても幸せを感じています。
今回はせっかくなので、
私の前職であるコーヒーの生産について
少しお話ししてみようと思います。
■ 前職はコーヒー生産業界
私にとっての「コーヒー」とは
野菜や穀物類といった生活必需品とは少し違ったスタンスで、
生活を「より充実させるもの」という意義を持つものです。
そんなコーヒー業界での仕事は約21年間に及びましたが、
そのうち15年間がハワイのコーヒー農園での仕事。
日本の大手コーヒー会社のハワイ現地法人において、
コーヒーの種選び~苗作り~栽培~収穫~生産、
そしてエンドユーザーへの卸売り、小売りに至るまで、
コーヒー農業とコーヒービジネスの全般に渡って
長きに渡り携わってきました。
まずは、私がハワイへ赴任した当初、
実際にコーヒー農園で働いてみたり、
お手本とすべき他国の農園を視察していて
意外に感じたことを2つご紹介します。
■ コーヒー生産で直面した意外なこと(1)
まず、コーヒー農園というと、
南国の広大な土地で青い空、
熱い陽射しの中、家族総出で働く姿、
日焼けした肌に汗が光って流れるような肉体労働、
そんな光景をイメージされませんか?
実際には、人が汗にまみれて働くというよりも、
どちらかというと機械が働いていて、
人は機械を管理しているといった光景が多く、
機械化、効率化、データ管理されたコーヒービジネス経営
といった感じが印象的でした。
ブラジルにおいてはコーヒー農園が広大すぎて、
車ではなくヘリコプターを使用していたり、
高さ3メートル位の大きさの機械が
収穫を行っていく光景がいまでも思い出されます。
企業ビジネスである以上、
利益を上げることが最重要目的であり、
今から振り返ると至極当たり前のことでしたが、
収穫もコーヒーの木のお世話も、収穫後の生産加工も、
全工程において機械化がなされていて、
人はその運転手なのです。
そして、低コスト・大量生産・スピードを求めた業務効率化、
データ分析に基づいた利益目標設定とその管理、
そんなことを探求する日々でした。
■ コーヒー生産で直面した意外なこと(2)
もうひとつ意外だったことは気候に関してで、
コーヒーは強い陽射し、直射日光に弱く、
むしろ日陰を好むということです。
コーヒー生産地といえば、年中高温で雨の多い場所、
赤道付近の場所が適しているものの、
一日で最も気温が上がるお昼前後においては、
むしろ曇りや雨天の環境の方がコーヒーの生育には適しています。
逆に曇りがないと直射日光でコーヒーの葉が日焼けしたり、
変色して生育障害にも至ってしまうのです。
ブラジルでは、直射日光による葉焼け、
ストレス、生育障害を防ぐため、
自然降雨を模して高所からコーヒーの木全体へ
人工散水する灌漑設備が印象的でした。
ハワイやブラジルではコーヒー農業も農作業を数値管理したり、
定期的な土壌分析に基づいた肥料作り、施肥計画、
収量効果と対比させたデータ管理などに基づいた
ビジネスとしての農業が行われているのです。
■ ハワイで独立、コーヒー農園を起業したわけ
コーヒー農園の現状を知れば知るほど、
利益を上げるのに、必需品ともいえる
殺虫剤、除草剤といった農薬と化学肥料の多用、
それと、自然と向き合うよりもパソコンと向き合う農業に
疑問や限界を感じていました。
そしてついに独立起業。
有機栽培、自然栽培のコーヒー農園を
経営するに至ったのです。
■ アメリカではなかなか理解されなかった自然栽培
15年振りに日本に帰国し、翔栄ファームで働きながら、
「コーヒー農業」また「自然栽培」について振り返り、
感じることを少しお話したいと思います。
まず、コーヒー生産に限っては、
国内での生産は極めて難しいです。
日本の気候には「冬」がありますし、
農地面積が限られていて大量生産も厳しいです。
更に、生活水準が高く人件費が高いなど、
農園経営面で不利な点が多いように感じます。
日本のコーヒー産地としては沖縄も有名ですが、
7~8年前に沖縄のコーヒー農園を幾つか訪問した際に、
自然環境、冬の低温、台風との折り合いに
ご苦労されている様子でした。
その一方で、日本の強みを考えた場合、
日本農業の後継者不足、耕作放棄地の増加が問題視される中でも、
農業を好んで行う人たちがいます。
ビジネスとしての農業というよりも、
「自然農法の発祥の地である日本」ならではの自然への敬愛、
生活の一部として自然と触れ合う生き甲斐、
充実感のようなものは強みではないかと感じています。
私がハワイで独立し、自然栽培、有機栽培を行っていた
3年近い期間も同じ気持ちで取り組んでいましたが、
こと「自然栽培」の意義においては、
アメリカ人には理解してもらえなかったと感じています。
アメリカでは有機栽培のビジネスモデルが確立されていて、
慣行農法よりも高価な農薬、肥料を使用しても、
消費者の有機作物への需要が高く、
供給が追いつかず、高値で販売できることから
「有機農業ビジネス」が成立していました。
コーヒー農園も有機栽培で売り上げと利益を伸ばし、
作付け面積、生産工場を拡大していく農園が
2018年頃から出てきていました。
そんな中で、有機栽培よりも生産力が落ち、
生育に時間がかかる自然栽培を理解できなかったのだと思います。
■ 人の想いやぬくもりを加えた、自然の恵み・美味しさ
日本人の自然や調和を大切する心、
手塩に掛ける、手間暇をかけるといった一見無駄とも思える行為、
目に見えない所にも目を配る心遣い、勤勉さ、
自然に対する高い意識が日本の農業の希少価値を高め、
自然の恵みをより価値の高いものへと仕立てていく。
私は日本の農業にそんな可能性を感じています。
アメリカで好まれるような自然を征服する、
自然を管理するという意識、価値観ではなく、
自然に委ねる、自然に生かされる、人も作物も自然の一部で、
自然に生かされていることに感謝し尊重する文化が根付いている、
そんな想いが日本に帰国してから一層強くなってきています。
前橋圃場で働く中でも、手間暇、無駄を惜しまない仕事というより、
人が手を使って行う、文字通りお手入れをする作業が多いのです。
農作物がコーヒーから野菜へ変われど、
小規模だからできる、機械ではできないであろう手作りの農作物つくり。
人の想いやぬくもりを加えた自然の恵みを、
美味しさを届けていく、広げていく、
そんな農業がまた貴重になっていく気がしていますし、
これからも追及していきたいと思っています。
前橋農場のK.Mです。
野菜や穀物は、私たちが生活する上で絶対に必要なもの。食物が本来持っている本当に美味しい自然の恵みや味わいを多くの方にお楽しみいただきたい。私も翔栄ファームの仲間たちと、そんな想いで日々栽培を行っています。
私の前職は、自然栽培と有機栽培のコーヒー農園で、アメリカのハワイ州で独立起業し、経営・運営をしておりました。
いまは日本に舞台を移し、生産するものがコーヒーから野菜や穀物となりましたが、無農薬、無肥料という、前職と変わることない健康に優しい農業に引き続き携わることができ、とても幸せを感じています。
今回はせっかくなので、私の前職であるコーヒーの生産について少しお話ししてみようと思います。
■ 前職はコーヒー生産業界
私にとっての「コーヒー」とは野菜や穀物類といった生活必需品とは少し違ったスタンスで、生活を「より充実させるもの」という意義を持つものです。
そんなコーヒー業界での仕事は約21年間に及びましたが、そのうち15年間がハワイのコーヒー農園での仕事。日本の大手コーヒー会社のハワイ現地法人において、コーヒーの種選び~苗作り~栽培~収穫~生産、そしてエンドユーザーへの卸売り、小売りに至るまで、コーヒー農業とコーヒービジネスの全般に渡って長きに渡り携わってきました。
まずは、私がハワイへ赴任した当初、実際にコーヒー農園で働いてみたり、お手本とすべき他国の農園を視察していて意外に感じたことを2つご紹介します。
■ コーヒー生産で直面した意外なこと(1)
まず、コーヒー農園というと、南国の広大な土地で青い空、熱い陽射しの中、家族総出で働く姿、日焼けした肌に汗が光って流れるような肉体労働、そんな光景をイメージされませんか?
実際には、人が汗にまみれて働くというよりも、どちらかというと機械が働いていて、人は機械を管理しているといった光景が多く、機械化、効率化、データ管理されたコーヒービジネス経営といった感じが印象的でした。
ブラジルにおいてはコーヒー農園が広大すぎて、車ではなくヘリコプターを使用していたり、高さ3メートル位の大きさの機械が収穫を行っていく光景がいまでも思い出されます。
企業ビジネスである以上、利益を上げることが最重要目的であり、今から振り返ると至極当たり前のことでしたが、収穫もコーヒーの木のお世話も、収穫後の生産加工も、全工程において機械化がなされていて、人はその運転手なのです。そして、低コスト・大量生産・スピードを求めた業務効率化、データ分析に基づいた利益目標設定とその管理、そんなことを探求する日々でした。
■ コーヒー生産で直面した意外なこと(2)
もうひとつ意外だったことは気候に関してで、コーヒーは強い陽射し、直射日光に弱く、むしろ日陰を好むということです。
コーヒー生産地といえば、年中高温で雨の多い場所、赤道付近の場所が適しているものの、一日で最も気温が上がるお昼前後においては、むしろ曇りや雨天の環境の方がコーヒーの生育には適しています。逆に曇りがないと直射日光でコーヒーの葉が日焼けしたり、変色して生育障害にも至ってしまうのです。
ブラジルでは、直射日光による葉焼け、ストレス、生育障害を防ぐため、自然降雨を模して高所からコーヒーの木全体へ人工散水する灌漑設備が印象的でした。
ハワイやブラジルではコーヒー農業も農作業を数値管理したり、定期的な土壌分析に基づいた肥料作り、施肥計画、収量効果と対比させたデータ管理などに基づいたビジネスとしての農業が行われているのです。
■ ハワイで独立、コーヒー農園を起業したわけ
コーヒー農園の現状を知れば知るほど、利益を上げるのに、必需品ともいえる殺虫剤、除草剤といった農薬と化学肥料の多用、それと、自然と向き合うよりもパソコンと向き合う農業に疑問や限界を感じていました。
そしてついに独立起業。有機栽培、自然栽培のコーヒー農園を経営するに至ったのです。
■ アメリカではなかなか理解されなかった自然栽培
15年振りに日本に帰国し、翔栄ファームで働きながら、「コーヒー農業」また「自然栽培」について振り返り、感じることを少しお話したいと思います。
まず、コーヒー生産に限っては、国内での生産は極めて難しいです。日本の気候には「冬」がありますし、農地面積が限られていて大量生産も厳しいです。更に、生活水準が高く人件費が高いなど、農園経営面で不利な点が多いように感じます。
日本のコーヒー産地としては沖縄も有名ですが、7~8年前に沖縄のコーヒー農園を幾つか訪問した際に、自然環境、冬の低温、台風との折り合いにご苦労されている様子でした。
その一方で、日本の強みを考えた場合、日本農業の後継者不足、耕作放棄地の増加が問題視される中でも、農業を好んで行う人たちがいます。ビジネスとしての農業というよりも、「自然農法の発祥の地である日本」ならではの自然への敬愛、生活の一部として自然と触れ合う生き甲斐、充実感のようなものは強みではないかと感じています。
私がハワイで独立し、自然栽培、有機栽培を行っていた3年近い期間も同じ気持ちで取り組んでいましたが、こと「自然栽培」の意義においては、アメリカ人には理解してもらえなかったと感じています。アメリカでは有機栽培のビジネスモデルが確立されていて、慣行農法よりも高価な農薬、肥料を使用しても、消費者の有機作物への需要が高く、供給が追いつかず、高値で販売できることから「有機農業ビジネス」が成立していました。
コーヒー農園も有機栽培で売り上げと利益を伸ばし、作付け面積、生産工場を拡大していく農園が2018年頃から出てきていました。そんな中で、有機栽培よりも生産力が落ち、生育に時間がかかる自然栽培を理解できなかったのだと思います。
■ 人の想いやぬくもりを加えた、自然の恵み・美味しさ
日本人の自然や調和を大切する心、手塩に掛ける、手間暇をかけるといった一見無駄とも思える行為、目に見えない所にも目を配る心遣い、勤勉さ、自然に対する高い意識が日本の農業の希少価値を高め、自然の恵みをより価値の高いものへと仕立てていく。私は日本の農業にそんな可能性を感じています。
アメリカで好まれるような自然を征服する、自然を管理するという意識、価値観ではなく、自然に委ねる、自然に生かされる、人も作物も自然の一部で、自然に生かされていることに感謝し尊重する文化が根付いている、そんな想いが日本に帰国してから一層強くなってきています。
前橋圃場で働く中でも、手間暇、無駄を惜しまない仕事というより、人が手を使って行う、文字通りお手入れをする作業が多いのです。農作物がコーヒーから野菜へ変われど、小規模だからできる、機械ではできないであろう手作りの農作物つくり。人の想いやぬくもりを加えた自然の恵みを、美味しさを届けていく、広げていく、そんな農業がまた貴重になっていく気がしていますし、これからも追及していきたいと思っています。