こんにちは。 翔栄ファーム前橋農場(群馬県)のM.Yです。
翔栄ファームでは安心・安全な食をみなさまにご提供できるよう、自社農園で除草剤を使わず、無農薬・無化学肥料の自然栽培で作物を作っています。
季節ごとのいろいろな野菜の他に、お米・大豆・麦などの穀類も栽培しています。
私は2022年2月から翔栄ファームで働き始めました。それは『人と環境にやさしく地球を汚さない、健康に良い自然を活かした野菜作りを学び、農業で地域に貢献したい』と思ったからです。
前回は、健康を害する慣行栽培について感じた疑問と、たまたま見つけた野性のコーヒーの木が、化学肥料も与えていないのに雑草と共生しながらイキイキとして、とても美味しい味わいに感動を覚えた、自然栽培との出会いについてお話しいたしました。
【農場便り】『ハワイで味わった野性のコーヒー豆に感動』私が慣行栽培に感じた疑問と、自然栽培との出会い①
今回は、自然栽培を始めたことによって経験したことをお話しさせていただきます。
■ 自然栽培でのコーヒー作りに向けて独立起業の準備
自然栽培のコーヒー作りを決意した私は、会社の業務を行いながら独立に向けての準備を進めました。
幸いにも、長年に渡り運営している有機栽培のコーヒー農園とご縁があり、休日を利用してコーヒー畑のお世話をしながら、化学肥料・除草剤を使わない、有機栽培のコーヒー生産を経験することができました。それと並行して独立起業に向け、土地や出資者やスタッフも探しました。
そもそも私は60歳の定年まではハワイで勤め上げて辞めるつもりでいました。会社としても同様の意向でしたが、本社の経営体制の変更により52歳の時に日本への移動指示が下されました。図らずとも同じタイミングで条件に合った土地が見つかったことから、ずいぶん前倒しで独立の準備が整ったのです。
間をおかず会社に退職願を出して、念願の独立を果たすことになったのです。
私が取得した土地は全くの更地で、これまでに農作物を作ったことがない土地でした。しかし20,200㎡(6,120坪)もあるこの土地は、標高・雨量・気温全てがコーヒー栽培に適しており、隣接する土地ともだいぶ間隔が取れることから、慣行栽培の畑で作っている種との交雑を避けられる、自然栽培を行うには絶好の場所でした。
山の裾野を新開発した区画は雑木林で、まさに一からの畑作りでした。
その準備期間中にも幸運は続き、知人の紹介で7年間耕作放棄地になったコーヒー畑のお世話をする機会に恵まれました。
かつては慣行栽培でコーヒーを作っていたそのコーヒー畑を、初めて見に行ったときは、本当にコーヒーを作れるのかと思うような有様でした。まさにジャングルのようで、大木が生い茂り雑草は生え放題の状態で、生き残っていたコーヒーの木の姿が見えないような状態でした。
なんとか伐採・除草をして姿が見えたコーヒーの木は、7年間化学肥料が与えられず、日も当たらない環境に放置されたコーヒーの木はすっかり衰弱していました。しかし、日当たりを確保して剪定を行ったことで、肥料を与えなくても新たな若葉が吹き返し実がついたのでした。
耕作放棄されて野生化したコーヒーは、今まで飲んだどのコーヒーよりも美味しいものでした。
味わいも深く濃く、3回抽出しても薄まらないおいしさは、10数年コーヒーを育ててきて初めての経験でした。
7年間耕作放棄地だったコーヒー畑で慣行栽培から自然栽培に切り替えて、栽培・収穫・精選・焙煎の各工程を実現できたことから、「自然栽培でもできるんだ!」という確信を得ることができました。
口の中にまだ残る味わいを噛み締めて、こんなに美味しいコーヒーが育つ土地に立った私の胸は希望にあふれました。
一方、私が取得した土地もジャングル状態から、大木を抜きとり土の中の巨石を掘り起こして大型重機を入れ、細かい所は人の手でなんとか切り開きました。
耕作放棄地となった場所での、慣行農法から自然栽培への切り替えを行うことができましたが、無耕作地での全く一からのコーヒー自然栽培は周りに前例がなく、完全なる未知の世界でした。
■ アメリカ式の有機栽培
アメリカでは健康と地球環境に対して消費者の意識が高く、オーガニックがビジネスになることから、オーガニックのコーヒー農園は周りにいくつかありました。
アメリカでの有機栽培は、できるだけ自然由来のものを使って栄養を与えていくという栽培方法です。殺虫剤は使わず植物の根から抽出した自然農薬を使い、化学肥料の代わりに有機肥料を与えていました。有機肥料には牛のフンや鳥のフンなど自然由来のものを使っていましたが、成分表を見ると90%以上は何が入っているのかわからないものでした。
農園主から教わったり、自らコーヒー農園でお世話した経験から、有機栽培は慣行栽培よりも自然環境と健康に良いという点において、根本的に違いはないと感じました。自然栽培を目指す私としては、アメリカ式の有機栽培は満足いくものではありませんでした。
■ 私が目指す自然栽培は『森を作る』
私が目指す自然栽培とは、加工物を使わずに自然のものを循環させる言わば『森を作る』という、ハワイでは誰もやっていなかった栽培方法でのコーヒー豆作りです。
コーヒーの生育に適した自然環境下でコーヒーの自然栽培を実践し、同じ志をもつ人々の道標になればという想いでした。
コーヒーの苗がある程度育ったら畑に植えました。コーヒーは気温の影響を受けやすいため、強い日差しから守るための対策が必要でした。
コーヒーの生育には日陰作りがとても重要ですが、適した日陰を作るために背の高い雑草を活かしたり、刈った雑草を乾燥させてコーヒーの日傘を作ったり、窒素補給にサンヘンプという植物を生育させて土壌に入れたりなど、いろいろな工夫をしました。
コーヒーの木は病気や害虫にも弱く、植えてから収穫できるまでに5〜6年かかることもあります。収穫できるほどの木に育てるために大切に手入れをして育てました。
■ 初めての収穫!
自然栽培で始めたものの、生育が想像以上に遅かったため農園内の一部の場所で、アメリカの有機栽培の承認『USD Organic(日本でいう有機JAS)』を得て、有機栽培に切り替えたところ、畑に植えてから2年目でたった1本だけですが、一粒の実をつけて初めての手摘みを行うことができました。
初めて実ったコーヒー豆を手にした瞬間は今でも忘れられません。
結果として自然栽培でのコーヒー作りは収穫までには至りませんでした。5年でコーヒーを販売できる状態にする予定でしたが、3年経った時点で断念しました。
5年の事業計画では想定していなかった『”コロナ”の発生で観光客が激減』『ハワイがこれまで経験したことのないコーヒー栽培で最悪の病気である”さび病”の蔓延』という、2つの大事件で経営の大幅な見直しが迫られました。
慣行栽培を含め、コーヒー栽培そのものが非常に厳しい状況下になりました。それと同時に私のビジネスや生活に対する価値観が大きく変わることとなり、日本に帰国して翔栄ファームで自然栽培をすることを決断するのです。詳しくは次回お話しいたします。
【農場便り】『ハワイで味わった野性のコーヒー豆に感動』私が慣行栽培に感じた疑問と、自然栽培との出会い③