■ 幻の大玉トマト『アロイトマト』とは!?
そのトマトの存在を、いつ、何で知ったのかは定かでありません。
大玉トマトの中で「最も甘く美味しすぎる!」と、トマト作りのプロも唸る、幻の固定種『アロイトマト』は、私の中で強烈に印象に残っていました。農業を初めて数年の私が「大玉のトマトと言えば?」と問われたら即座に、そして唯一回答できる品種でした。
トマトの生まれ故郷・原産地は、南米アンデス山脈の西斜面沿いにある、ペルーなどの高原地帯に野生種が多く自生することから、この地帯が原産地と考えられています。
そこからメキシコを経て世界中に広がりました。
日本には、オランダ人によって、18世紀のはじめに伝えられたと言われています。
日本に初めて伝えられたトマトは、今のミニトマトに似ている「ほうずきより大きい」程度の小さな種類でした。
現在世界では約8000種類を超えるトマトの品種があるとされています。
日本国内では2008年時点で、約120種類を超えるトマトが品種登録されています。
アロイトマトは、その中でもトップに君臨する味わいと言っても過言ではありません。
■ 2023年のトマト作りチャレンジ開始!
2023年に入ってすぐ、春にトマトを作ろうということになり、どの品種を作るか?の問に私が答えたのは、タイ語で「美味しい」という意味のアロイトマトでした。
翔栄ファームでは、一般的な慣行農法※1ではなく、「固定種※2・在来種※3」の種で、農薬・化学肥料を使わないため、雑草や虫と戦いつつ、10倍も手間がかかりますが、安全で自然の力がみなぎる美味しい農作物作りを行っています。
その為、野菜作りにチャレンジする時には、いつも多くの種類から作る品種を選び抜かなくてはならず、検討にも手こずることがしばしばでした。しかし大玉トマトの品種といえば私には1択しかなかったので、他の野菜と比べてとてもスムーズに、アロイトマト作りのチャレンジが決定しました。
※1:慣行農法(農薬、肥料の投入量や散布回数などにおいて相当数の生産者が実施している一般的な農法のこと。)
※2:固定種(何代も、種を取り、育てていく、といった自然な育種をしていくうちに、自然とその野菜の個性が定着し、固定していったものをいう。何世代にもわたり絶えず選抜・淘汰され、遺伝的に安定した品種。)
※3:在来種(固定種の一つで、自然な育種をしていくうちに、その地域の気候・風土に合わせて適応していった野菜のこと。)
アロイトマトは”幻の”と言われるだけあって、種を手に入れること自体も非常に苦労しました。とにかく取り扱っている種苗業者が限られており、在庫も品薄の状態でしたが、なんとか方々手を尽くして種を手に入れることができました。
2023年2月末、ついにその種を畑に蒔き、チャレンジが始まりました。栽培経験のある方からアドバイスをいただきながら、1本仕立て(主枝を1本で伸ばし、わき芽は全て取り除くやり方)で育てました。
ちなみに、1本仕立ての他にも、2本仕立て(主枝+わき芽1本を伸ばした2本を軸に育てていくやり方)と、3本仕立て(主枝+わき芽2本を伸ばした3本を軸に育てていくやり方)があります。
作物を育てるには色んな方法や、気候天候や地質など沢山の要素が関わってきます。正解はなく、試してみて出来上がれば正解だし、更に改良を加えて収穫量が増えたり、味が良くなれば正解が更新されていくというものです。
■ 幻のアロイトマト芽吹く!そして闘いのゴング
アロイトマトの初芽吹きは、蒔いた種の半分以下でした。正直に言うと想定外の数でした・・・
そこは自然と生き物が相手の農業、最初から全てがうまくいくはずがありません。大切に育てるべく、ビニールハウスの中で元気に芽吹いたアロイトマトに水をあげ続けると、すくすくと育っていきました。
数日経って、栄養を果実に集中させるために、蕾や花を摘み取る作業をしていると、恐れていた事態を発見したのです。
無農薬の闘いのゴングが鳴りました。その相手は”害虫”と”病気”です。
最初の相手は『ダニ』でした。葉や果実を食い荒らすダニには、”天敵製剤”で対抗します。天敵製剤とは、発生する害虫を食べたり、 退治してくれる昆虫やダニのことです。ある意味毒を以て毒を制すといった手法です。
その後にやってくる相手は病気です。植物の葉などに「うどん粉(小麦粉)」をまぶしたような白いまだら模様が現れる「うどん粉病」や、葉っぱが黄色く変色して巻いていく症状の、ダニが媒介する「黄変葉巻病(おうへんはまきびょう)」です
いずれも果実に打撃を与える恐ろしい敵です。
対処方法は、感染した部分や、苗全体を破棄して健康なトマトを守るしかありません。
更に収穫量は減ってしまいますが、仕方がありません。少しでも健康な苗を守るため黙々と破棄作業を続けました。
アロイトマト作りの中で最も苦労したのは、気温が40度近くにまで上がるビニールハウス内での作業でした。
毎回2リットル以上の給水をしながらの作業は、正直体にこたえました。
しかし残ったアロイトマト15本の成長は、その辛さを吹き飛ばしてくれるほど元気に育ってくれました。
■ さあ!収穫だ!そして幻のお味は??
2023年も7月になり待ちに待った収穫時期がきました!アロイトマトの果実をハサミで切り取った直後に、食べた時の喜びはひとしおでした。
私がこれまで食べてきたフルーツトマトたちと比べて、しっかりとした絶妙な甘さと酸味が口の中に広がり、幻のトマトに相応しいものでした。
これまでの疲れが吹っ飛び、苦労が報われる感動を味わいました。
この味を是非とも実際に味わってみてください!
アロイトマトはとにかく糖度が高いので、生でガブっといってくださいね!
トマトが苦手なお子さんも、甘さでガブっといけると思います!!
今回の失敗や反省点を生かして、更にたくさん作れるように備え、来年の種まきをワクワク待ちながら、今日も畑に向かい新たなチャレンジをしています。
私の密かな野望ですが、いつかは固定種のイチゴを作ってみたいです。