種苗法の一部を改正する法律が
2020年12月2日に国会で成立、
9日に公布されました。
種苗法という法律は、
農業従事者のみならず一般消費者の間でも関心が高く、
人によって賛成や反対など
受け止め方に差が出ることがよくあります。
また、インターネットで検索すると
様々な推論による独創的なストーリーが
展開されていることはご承知の通りです。
そこで当コラムでは、大前提として、
情報源を農林水産省webサイト
「種苗法の改正について」にて説明されている、
あるいは提供されている資料のみに絞って考察していきます。
つまり、推論を差し挟まず、
法案作成の本丸、「可決した法律」そのものだけを
信頼するということです。
(主な条文の施行日は令和3年4月1日
及び令和4年4月1日となっています)
■ そもそも種苗法とは?
種苗法は、植物の新品種の創作に対する保護を目的に、
1998年5月29日に公布されました。
植物の新たな品種(花や農産物等)の創作をした人は、その新品種を登録することで、植物の新品種を育成する権利(育成者権)を占有することができる
との旨が定められています。
育成者権における権利の形態は、
特許権や実用新案権のしくみと非常によく似ていて、
例えば、優先権や専用利用権、通常利用権、
先育成による通常利用権、裁定制度、
職務育成品種など、多くの共通点を持っています。
ではなぜ今回法改正が行われたのか?
その背景を見てみたいと思います。
■ 法改正の背景
「国益を損じている」
この一言に集約されるのかもしれません。
いくつかの状況についてご説明します。
ご存じの方も多いと思うのですが、
近年、日本国内の優良品種が海外に流出し、
更にそこで増産され第三国に輸出される等、
日本からの輸出をはじめ、国内の農林水産業の発展に
支障を及ぼす事態が発生しています。
「ぶどう(シャインマスカット)」「いちご」
「さくらんぼ」「いぐさ」などの
登録品種の海外流出が特に有名です。
(※「シャインマスカット」の事例は後述)
このような状況にも関わらず、
育成者権侵害の立証には、品種登録時の種苗との
比較栽培が必要とされる判決が出るなど、
育成者権の活用のしづらさが顕在化しています。
このため、登録品種を育成者権者の意思に応じて
海外流出の防止等の措置ができるようにするとともに、
育成者権を活用しやすい権利とするため、
品種登録制度の見直しが求められているのです。
■ シャインマスカットの海外流出事件
農研機構が開発したブドウ品種「シャインマスカット」は、
品種登録まで親系統の「安芸津21号」の開発から
数えて33年、交配試験開始から数えれば18年
という歳月を要したそうです。
そして、この18年だけでも、
13人の研究者が品種開発に携わりました。
シャインマスカットはどのような“ぶどう”なのか?
主な特質点としては以下の様なものが挙げられます。
・日本で育成されたブドウ品種である
・甘みが強く
・食味も優れ
・皮ごと食べられ
・高値で取引されている
・輸出産品としての期待が高い
まさに日本が世界に誇るブランド品種です。
しかし、このシャインマスカットの苗木が
海外に流出したことが数か国で確認されているのです。
それらの国は「中国」と「韓国」です。
中国においては、「陽光バラ」「陽光玫瑰」
「香印翡翠」等の名称での販売が確認されています。
(※ 「香印」はシャイン【xiāng yìn】と発音されます)
そして「香印」を含む商標(香印青提、香印翡翠)の
出願が判明しており、更に日本原産として、
高値による苗木の取引も確認されています。
韓国においても、
韓国国内でのシャインマスカットの栽培、
市場での販売が確認されています。
これだけを挙げても
日本にとっては大きな損失なのですが、
実態はそんなものではありません。
両国に流出したシャインマスカットは
現地で栽培された上で、
更に第三国に輸出されているのです。
先程、日本にとってシャインマスカットは
「輸出産品としての期待が高い」と説明しましたが、
中国と韓国においても期待が高いばかりか
輸出品としての大きな役割を担っている気配があります。
というのは、
・タイ市場 → 中国産、韓国産
・香港市場 → 中国産、韓国産
・マレーシア、ベトナム市場 → 韓国産
という具合にアジア圏の数か国で
すでにシャインマスカットは流通が確認されています。
このような状況下で、もしこれまでの種苗法が
上手く機能していなかったとするならば、
種苗法のコアである「育成者権の保護」について、
育成者が活用しやすい権利とするための
実効性を高める制度見直しは、
待ったなしではないでしょうか。
■ 「一般品種」と「登録品種」の違い
ということでそろそろ本題に入りますが、
その前に重要キーワードである「一般品種」と
「登録品種」の違いについてご説明します。
種苗法において保護される品種は、
新たに開発され、種苗法で登録された品種に限られます。
これを「登録品種」といいます。
対して「一般品種」とは、
在来種、品種登録されたことがない品種、
品種登録期間(品種登録後、最長25年間。果樹等の大本は最長30年間)が切れた品種です。
つまり今まで食べていた一般品種の農作物が、
明日から急に「登録品種」として育成者権が発生したり、
農家が自家採種できなくなったりすることはありません。
そもそも種苗法においては、
一般品種の利用は何ら制限されていないのです。
では、一体、今回の法改正の中身は何なのでしょうか?
■ 代表的な改正点
代表的な改正点1:
育成者権者の意思に応じて、海外流出防止等ができるようにするための措置
現行法では、登録品種が販売された後に
海外へ持ち出されることは違法ではなく、
持ち出し行動を制限することもできません。
しかし改正法では
「登録品種について、育成者権者が利用条件(国内利用限定、国内栽培地域限定)を出願時に付した場合は、利用条件に反した行為を育成者権者が制限できることとする」
となります。
更に
「登録品種には、①登録品種であること、②利用制限を行った場合はその旨の表示を義務付ける」
ことにもなります。
つまり利用条件に反した種苗の持ち出しは
育成者権の侵害となります。
また、仮に一部の国への輸出が
育成者権者によって許諾されていた場合、
万が一育成者の意図しない国へ輸出する行為や
意図しない地域での販売行為についても
育成者権を及ぼせるように特例を設ける、
ということが明文化されています。
一例としては、
「海外へ持ち出されることを知りながら種苗等を譲渡した者も、刑事罰や損害賠償等の対象となり得る」
が挙げられます。
ここあたりまではどのようなお考えの方にも、
すんなりと受け入れられるのではないでしょうか。
特許権や実用新案権のように
自分の発明品が法律によって保護されることに
違和感を覚える方はまずいらっしゃらないのではないかと。
話を先に進めます。
先入観を捨ててお読みください。
「自家増殖の見直し」が規定されました。
誤解が起こらないように、
再度種苗法の適用範囲をおさらいしておきますが、
「登録品種」のみが育成者権の保護を受けるため、
ここでいうところの「自家増殖の見直し」は、
当然「登録品種」のみということです。
規定された内容は
「農業者が登録品種の収穫物の一部を次期収穫物の生産のために当該登録品種の種苗として用いる自家増殖は、育成者権者の許諾に基づき行うこととする」
ということです。
育成者権は特許権のようなもの
と何度かお伝えしています。
許諾を得れば自家採種は可能です。
決して禁止ではありません。
許諾料については
「新品種は農業者に利用してもらわなければ意味がないので、農業者の利用が進まない許諾料となることは考えられません(農水省「種苗法の改正について」よくある質問より)」
とあります。
因みに、今回の法改正は、
自家消費を目的とする家庭菜園や
趣味としての利用に影響はありませんのでご安心ください。
代表的な改正点2:
育成者権を活用し易くするための措置
育成者権の侵害が疑われる場合には、
品種登録簿に記載された登録品種の特性(特性表)と
被疑侵害品種の特性を比較することで、
両者の特性が同一であることを推定する制度を設けます。
この制度によって侵害立証を行いやすくすることになります。
もう一点、登録品種の名簿である
「品種登録簿」に記載された特性表について、
育成者が内容の補正を請求できる制度を設けます。
また、裁判での証拠等に活用できるよう
育成者権が及ぶ品種か否かを
農林水産大臣が判定する制度を設けるとしています。
このあたりの話になってくると、
このような疑問が湧いてこないでしょうか。
「在来種を自家増殖している農業者が近隣の登録品種の花粉が交雑した種を採った場合でも、登録品種の権利者から訴えられるようになるのですか?」
実はこれは、農水省のWEBサイト
「種苗法の改正について」の「よくある質問」に、
ズバリ回答がありますのでこれを転載します。
質問 > 在来種を自家増殖している農業者が近隣の登録品種の花粉が交雑した種を採った場合でも、登録品種の権利者から訴えられるようになるのですか
回答 > 種苗法及び種苗法改正法案で登録品種に権利が及ぶのは、登録品種とすべての特性が同じ場合です。農業者が栽培している在来種に登録品種の花粉が交雑して採れる種は、一般に登録品種と全ての特性が同じにはならないため、登録品種の権利は及びません。
これは農業従事者にとっては
非常に重要な話であるのと同時に、
この農水省の回答は不安材料を払拭する朗報です。
もちろん我々、翔栄ファームにとっても同様です。
この他にもいくつかのQ&Aがあります。
内容的には重複することもありますが、
何点かご紹介しておきます。
質問 > 自家増殖は一律禁止になりますか?
回答 > 禁止にはなりません。現在利用されているほとんどの品種は一般品種であり、今後も自由に自家増殖が可能で、もし登録品種であれば許諾を得れば可能です。
質問 > 農業者が今まで使っていた品種が品種登録され、許諾料を払うことになりませんか?
回答 > 在来種(地域の伝統品種)を含め、農業者が今まで利用していた一般品種は今後とも許諾も許諾料も必要ありません。
質問 > 海外の多国籍企業による種子の支配が進むのではないですか?
回答 > 日本では公的機関や国内の種苗会社が、海外の多国籍企業が開発できない日本の風土に適合した優良な品種を開発しているため、種苗法が改正されたとしても海外企業による種子の支配を心配する必要はありません。むしろ、今後も国内の新品種の権利を守る制度の整備が必要です。
以上が、今回の種苗法改正のポイントとなります。
最後になりますが、全体をまとめる意味合いにおいて、
翔栄ファームの活動が今後継続できるかどうかを
改正案と照合しながら検証していきたいと思います。
■ 翔栄ファームの農業について
翔栄ファームは、F1種を一切使用せず、
固定種・在来種のみを使用した
自然栽培(自然由来の有機肥料を使う場合あり)を行い、
100%自家採種を目指しながら、2018年より
群馬県前橋市、茨城県龍ヶ崎市、岐阜県美濃加茂市の
自社圃場で営農をしています。
もちろん農薬や化学肥料は一切使用せず、
農場近隣の落ち葉をスタッフが大量にかき集め、
それを発酵させた腐葉土を畑の土に混ぜ合わせることで、
土中の微生物による“自然本来の偉大な土づくり”の
循環サイクルの活性化を図っています。
■ 翔栄ファームに影響はあるか?
簡潔に述べると翔栄ファームは
このような考えで農業を行っていますが、
種苗法との関連性で見ると、
・固定種・在来種のみを使用
・100%の自家採種を目指す
という2点が大いに関係します。
「固定種・在来種のみを使用」するという点において、
固定種には登録品種もありますが、
これらのほとんどは「一般品種」のため、
そもそも種苗法を不安視する必要がありません。
同様に「100%の自家採種を目指す」
という点においても1点目同様、
固定種・在来種の大半が「一般品種」のため
自家採種に何ら制限が掛かりません。
(現在、登録品種の固定種の自家採種は行っていません)
仮に登録品種を自家採種することがあったとしても
「許諾」を得さえすれば
農業活動そのものに支障をきたすことはないのです。
更に新品種を生み出したのであれば、
品種登録の上、育成者権を獲得し、
種苗法の保護によって販売地域や栽培地域を
育成者の意思によって決定すると共に、
海外販路の開拓にも積極的に打ってでることも可能となります。
以上、要点のみですが、
2020年12月の種苗法改正に関して
農水省の発表資料をベースに解説してまいりました。
ただ日本の農政に関する法律は「種苗法」だけではありません。
実際、2018に廃止された「種子法」により
米などの穀物の種が民間企業に委ねられ、
「多くの農家が海外の種苗会社から種籾を買う」という、
ここまで説明してきた種苗法とは“正反対”とも思える
実態と法律があるのはなぜなのか?
正直理解に苦しむことは多々あります。
そして食に関しては多くの問題が存在するのも事実です。
だからこそ我々翔栄ファームは農薬・化学肥料一切不使用で
固定種・在来種のみを自然栽培し、
100%の自家採種を目指しているのです。
種苗法の一部を改正する法律が2020年12月2日に国会で成立、9日に公布されました。
種苗法という法律は、農業従事者のみならず一般消費者の間でも関心が高く、人によって賛成や反対など受け止め方に差が出ることがよくあります。
また、インターネットで検索すると様々な推論による独創的なストーリーが展開されていることはご承知の通りです。
そこで当コラムでは、大前提として、情報源を農林水産省webサイト「種苗法の改正について」にて説明されている、あるいは提供されている資料のみに絞って考察していきます。
つまり、推論を差し挟まず、法案作成の本丸、「可決した法律」そのものだけを信頼するということです。(主な条文の施行日は令和3年4月1日及び令和4年4月1日となっています)
■ そもそも種苗法とは?
種苗法は、植物の新品種の創作に対する保護を目的に、1998年5月29日に公布されました。
植物の新たな品種(花や農産物等)の創作をした人は、その新品種を登録することで、植物の新品種を育成する権利(育成者権)を占有することができる
との旨が定められています。育成者権における権利の形態は、特許権や実用新案権のしくみと非常によく似ていて、例えば、優先権や専用利用権、通常利用権、先育成による通常利用権、裁定制度、職務育成品種など、多くの共通点を持っています。
ではなぜ今回法改正が行われたのか?
その背景を見てみたいと思います。
■ 法改正の背景
「国益を損じている」
この一言に集約されるのかもしれません。
いくつかの状況についてご説明します。ご存じの方も多いと思うのですが、近年、日本国内の優良品種が海外に流出し、更にそこで増産され第三国に輸出される等、日本からの輸出をはじめ、国内の農林水産業の発展に支障を及ぼす事態が発生しています。
「ぶどう(シャインマスカット)」「いちご」「さくらんぼ」「いぐさ」などの登録品種の海外流出が特に有名です。(※「シャインマスカット」の事例は後述)
このような状況にも関わらず、育成者権侵害の立証には、品種登録時の種苗との比較栽培が必要とされる判決が出るなど、育成者権の活用のしづらさが顕在化しています。このため、登録品種を育成者権者の意思に応じて海外流出の防止等の措置ができるようにするとともに、育成者権を活用しやすい権利とするため、品種登録制度の見直しが求められているのです。
■ シャインマスカットの海外流出事件
農研機構が開発したブドウ品種「シャインマスカット」は、品種登録まで親系統の「安芸津21号」の開発から数えて33年、交配試験開始から数えれば18年という歳月を要したそうです。そして、この18年だけでも、13人の研究者が品種開発に携わりました。
シャインマスカットはどのような“ぶどう”なのか?
主な特質点としては以下の様なものが挙げられます。
・日本で育成されたブドウ品種である
・甘みが強く
・食味も優れ
・皮ごと食べられ
・高値で取引されている
・輸出産品としての期待が高い
まさに日本が世界に誇るブランド品種です。
しかし、このシャインマスカットの苗木が海外に流出したことが数か国で確認されているのです。それらの国は「中国」と「韓国」です。中国においては、「陽光バラ」「陽光玫瑰」「香印翡翠」等の名称での販売が確認されています(※ 「香印」はシャイン【xiāng yìn】と発音されます)。そして「香印」を含む商標(香印青提、香印翡翠)の出願が判明しており、更に日本原産として、高値による苗木の取引も確認されています。
韓国においても、韓国国内でのシャインマスカットの栽培、市場での販売が確認されています。
これだけを挙げても日本にとっては大きな損失なのですが、実態はそんなものではありません。
両国に流出したシャインマスカットは現地で栽培された上で、更に第三国に輸出されているのです。先程、日本にとってシャインマスカットは「輸出産品としての期待が高い」と説明しましたが、中国と韓国においても期待が高いばかりか輸出品としての大きな役割を担っている気配があります。
というのは、
・タイ市場 → 中国産、韓国産
・香港市場 → 中国産、韓国産
・マレーシア、ベトナム市場 → 韓国産
という具合にアジア圏の数か国で、すでにシャインマスカットは流通が確認されています。
このような状況下で、もしこれまでの種苗法が上手く機能していなかったとするならば、種苗法のコアである「育成者権の保護」について、育成者が活用しやすい権利とするための実効性を高める制度見直しは、待ったなしではないでしょうか。
■ 「一般品種」と「登録品種」の違い
ということでそろそろ本題に入りますが、その前に重要キーワードである「一般品種」と「登録品種」の違いについてご説明します。
種苗法において保護される品種は、新たに開発され、種苗法で登録された品種に限られます。これを「登録品種」といいます。対して「一般品種」とは、在来種、品種登録されたことがない品種、品種登録期間(品種登録後、最長25年間。果樹等の大本は最長30年間)が切れた品種です。つまり今まで食べていた一般品種の農作物が、明日から急に「登録品種」として育成者権が発生したり、農家が自家採種できなくなったりすることはありません。そもそも種苗法においては、一般品種の利用は何ら制限されていないのです。
では、一体、今回の法改正の中身は何なのでしょうか?
■ 代表的な改正点
代表的な改正点1: 育成者権者の意思に応じて、海外流出防止等ができるようにするための措置
現行法では、登録品種が販売された後に海外へ持ち出されることは違法ではなく、持ち出し行動を制限することもできません。
しかし改正法では
「登録品種について、育成者権者が利用条件(国内利用限定、国内栽培地域限定)を出願時に付した場合は、利用条件に反した行為を育成者権者が制限できることとする」
となります。
さらに、
「登録品種には、①登録品種であること、②利用制限を行った場合はその旨の表示を義務付ける」
ことにもなります。つまり利用条件に反した種苗の持ち出しは育成者権の侵害となります。
また、仮に一部の国への輸出が育成者権者によって許諾されていた場合、万が一育成者の意図しない国へ輸出する行為や意図しない地域での販売行為についても育成者権を及ぼせるように特例を設ける、ということが明文化されています。
一例としては、
「海外へ持ち出されることを知りながら種苗等を譲渡した者も、刑事罰や損害賠償等の対象となり得る」
が挙げられます。
ここあたりまではどのようなお考えの方にも、すんなりと受け入れられるのではないでしょうか。特許権や実用新案権のように自分の発明品が法律によって保護されることに違和感を覚える方はまずいらっしゃらないのではないかと。
話を先に進めます。
先入観を捨ててお読みください。
「自家増殖の見直し」が規定されました。
誤解が起こらないように、再度種苗法の適用範囲をおさらいしておきますが、「登録品種」のみが育成者権の保護を受けるため、ここでいうところの「自家増殖の見直し」は、当然「登録品種」のみということです。
規定された内容は、
「農業者が登録品種の収穫物の一部を次期収穫物の生産のために当該登録品種の種苗として用いる自家増殖は、育成者権者の許諾に基づき行うこととする」
ということです。
育成者権は特許権のようなものと何度かお伝えしています。許諾を得れば自家採種は可能です。決して禁止ではありません。
許諾料については、
「新品種は農業者に利用してもらわなければ意味がないので、農業者の利用が進まない許諾料となることは考えられません(農水省「種苗法の改正について」よくある質問より)」
とあります。
因みに、今回の法改正は、自家消費を目的とする家庭菜園や趣味としての利用に影響はありませんのでご安心ください。
代表的な改正点2: 育成者権を活用し易くするための措置
育成者権の侵害が疑われる場合には、品種登録簿に記載された登録品種の特性(特性表)と被疑侵害品種の特性を比較することで、両者の特性が同一であることを推定する制度を設けます。この制度によって侵害立証を行いやすくすることになります。
もう一点、登録品種の名簿である「品種登録簿」に記載された特性表について、育成者が内容の補正を請求できる制度を設けます。また、裁判での証拠等に活用できるよう育成者権が及ぶ品種か否かを農林水産大臣が判定する制度を設けるとしています。
このあたりの話になってくると、このような疑問が湧いてこないでしょうか。
「在来種を自家増殖している農業者が近隣の登録品種の花粉が交雑した種を採った場合でも、登録品種の権利者から訴えられるようになるのですか?」
実はこれは、農水省のWEBサイト「種苗法の改正について」の「よくある質問」に、ズバリ回答がありますのでこれを転載します。
質問 > 在来種を自家増殖している農業者が近隣の登録品種の花粉が交雑した種を採った場合でも、登録品種の権利者から訴えられるようになるのですか
回答 > 種苗法及び種苗法改正法案で登録品種に権利が及ぶのは、登録品種とすべての特性が同じ場合です。農業者が栽培している在来種に登録品種の花粉が交雑して採れる種は、一般に登録品種と全ての特性が同じにはならないため、登録品種の権利は及びません。
これは農業従事者にとっては非常に重要な話であるのと同時に、この農水省の回答は不安材料を払拭する朗報です。もちろん我々、翔栄ファームにとっても同様です。
この他にもいくつかのQ&Aがあります。内容的には重複することもありますが、何点かご紹介しておきます。
質問 > 自家増殖は一律禁止になりますか?
回答 > 禁止にはなりません。現在利用されているほとんどの品種は一般品種であり、今後も自由に自家増殖が可能で、もし登録品種であれば許諾を得れば可能です。
質問 > 農業者が今まで使っていた品種が品種登録され、許諾料を払うことになりませんか?
回答 > 在来種(地域の伝統品種)を含め、農業者が今まで利用していた一般品種は今後とも許諾も許諾料も必要ありません。
質問 > 海外の多国籍企業による種子の支配が進むのではないですか?
回答 > 日本では公的機関や国内の種苗会社が、海外の多国籍企業が開発できない日本の風土に適合した優良な品種を開発しているため、種苗法が改正されたとしても海外企業による種子の支配を心配する必要はありません。むしろ、今後も国内の新品種の権利を守る制度の整備が必要です。
以上が、今回の種苗法改正のポイントとなります。
最後になりますが、全体をまとめる意味合いにおいて、翔栄ファームの活動が今後継続できるかどうかを改正案と照合しながら検証していきたいと思います。
■ 翔栄ファームの農業について
翔栄ファームは、F1種を一切使用せず、固定種・在来種のみを使用した自然栽培(自然由来の有機肥料を使う場合あり)を行い、100%自家採種を目指しながら、2018年より群馬県前橋市、茨城県龍ヶ崎市、岐阜県美濃加茂市の自社圃場で営農をしています。
もちろん農薬や化学肥料は一切使用せず、農場近隣の落ち葉をスタッフが大量にかき集め、それを発酵させた腐葉土を畑の土に混ぜ合わせることで、土中の微生物による“自然本来の偉大な土づくり”の循環サイクルの活性化を図っています。
■ 翔栄ファームに影響はあるか?
簡潔に述べると翔栄ファームはこのような考えで農業を行っていますが、種苗法との関連性で見ると、
・固定種・在来種のみを使用
・100%の自家採種を目指す
という2点が大いに関係します。
「固定種・在来種のみを使用」するという点において、固定種には登録品種もありますが、これらのほとんどは「一般品種」のため、そもそも種苗法を不安視する必要がありません。同様に「100%の自家採種を目指す」という点においても1点目同様、固定種・在来種の大半が「一般品種」のため自家採種に何ら制限が掛かりません(現在、登録品種の固定種の自家採種は行っていません)。
仮に登録品種を自家採種することがあったとしても「許諾」を得さえすれば農業活動そのものに支障をきたすことはないのです。更に新品種を生み出したのであれば、品種登録の上、育成者権を獲得し、種苗法の保護によって販売地域や栽培地域を育成者の意思によって決定すると共に、海外販路の開拓にも積極的に打ってでることも可能となります。
以上、要点のみですが、2020年12月の種苗法改正に関して農水省の発表資料をベースに解説してまいりました。
ただ日本の農政に関する法律は「種苗法」だけではありません。
実際、2018に廃止された「種子法」により米などの穀物の種が民間企業に委ねられ、「多くの農家が海外の種苗会社から種籾を買う」という、ここまで説明してきた種苗法とは“正反対”とも思える実態と法律があるのはなぜなのか?
正直理解に苦しむことは多々あります。
そして食に関しては多くの問題が存在するのも事実です。だからこそ我々翔栄ファームは農薬・化学肥料一切不使用で固定種・在来種のみを自然栽培し、100%の自家採種を目指しているのです。