茨城県南部の龍ケ崎市は、茨城観光百選にも選ばれている牛久沼があり、昔ながらの街並みが多く風情がある。私がこれまで住んだ街より空が大きくて晴れの日が多く、非常に農業に適した土地です。一方、冬の冷え込みは、遮蔽物が少ないため風が強く、過去には-15.5°Cを記録したことがあるほどの厳しさですが、近年では龍ケ崎に魅せられた移住者が多いという特徴もある土地です。
私はこの龍ケ崎で農業をやっていますが、作物にとって最恐の敵と言ってもいい生き物と、毎日のように戦っています。その敵とはなんだと思いますか?
作物の脅威となる生き物は沢山います。シカやイノシシ、ネズミ、タヌキ、カラスやスズメなど挙げたらきりがありません。どの生き物も農業には悩ましい難敵ですが、私にとってはヤツに比べたら可愛いもんです。
■ 最恐の敵、それは【アブラムシ】
アブラムシが最恐の敵?と拍子抜けした人もいると思いますが、アブラムシは本当に恐ろしいんです!作物にとって最も怖い敵こそ、私にとっては「アブラムシ」なのです。その恐ろしさを説明していきます。
アブラムシの防御力ですが、これははっきり言って大したことはありません。
一般的な昆虫は体の外側を固い殻で覆って、敵の攻撃に耐える外骨格なのです。しかし、アブラムシはふにゃふにゃのプニプニで、敵のキバや爪には全くの無防備です。人間の指が2本もあればプチッで終わりです。
そして攻撃力ですが、アブラムシにはキバやツメや針などがありません。
攻撃力がゼロに等しいアブラムシは、やられっぱなしの非暴力昆虫なのです。更には動作が遅く、逃げ足など存在しません。
と、ここまで聞くと「最弱の間違いだろ!」と思われた方もいると思いますが、ここからです。
アブラムシの最恐ポイントは繁殖力です。
これがアブラムシの唯一無二であり最恐の武器なのです。
オスとメスの交尾から産まれるのはもちろんですが、なんと1匹だけでも子供が産めるのです。
実はアブラムシのメスの幼虫は、生まれた時点で既におなかの中に子供を宿しているのです。そして成虫になると、おなかの中で育った子供を出産します。
母アブラムシからすれば、出産した瞬間に自分の子供が孫を妊娠している状態です。この不思議な繁殖方法によって、アブラムシは短い期間で一気に個体数を増やしていきます。
オスの出番は、秋だけ。卵の状態にならないと冬の寒さを越せないため、オスとメスで交尾をして卵を産むのです。
オスの役割は、ただ冬を越すための卵を産む時だけなので、あまりに出番がないせいか、メスに比べてオスの数は極端に少ないそうです。
さらに、卵で生む卵生ではなく、親と同じ形の子供で生む胎生なので、子供が死ぬ確率は極端に低いのです。だから、ドンドン増えるのです。
特にメス一匹から生まれる子供は親のクローンなので、親の耐性をそのまま受け継ぎます。
ここが人間にとって最も厄介なところ。つまり、ひとつの薬剤で死にかけた親から生まれた子供が、この薬剤の耐性を持ってしまう。だから、同じ薬は効果が無くなる。この恐怖の連鎖が続くと、殺虫剤が効かない最強アブラムシが出来てしまうのです。
■ 畑の暴君【アブラムシ】が暴れ回った結果の被害
アブラムシが及ぼす被害は、草花・樹木・野菜など多くの植物の新芽や葉裏などに寄生して、植物の汁液(師管液)を吸う直接被害と、多年生の植物にとって深刻で、かかってしまうと治療することはできないウイルス病を媒介する間接被害があります。
アブラムシの排泄物は甘い液体で甘露(かんろ)と呼ばれ、この甘露を利用するためにアリが集まってきます。アリはアブラムシの天敵であるテントウムシなどからアブラムシをガードするので、アブラムシの繁殖を助けてしまいます。さらに、この甘露でベタついた部分はカビが発生しやすくなり、カビが原因となるすす病になる可能性が高くなります。
■ 最恐【アブラムシ】に駆除法はない!?
農業を始めた頃、アブラムシの被害を受けて駆除する方法をインターネットで探した結果、「完全な駆除法は1匹残らず指で潰す」という手段しかありませんでした。さらに翔栄ファームでは害虫駆除に農薬は使わないため、絶望感に襲われました。
しかし、ここで諦めるわけにはいきません。更に調べていくと、苦手な成分や匂いが出るもので寄り付かなくさせるための「ストチュウ」という酸っぱい液体を吹きかける方法を見つけました。
「ストチュウ」は、お酢・焼酎・木酢液という自然のものでできる最強の武器でした。
実際は「ストチュウ」単体では最強の武器とは言えません。丹念に見回って「ストチュウ」を気にしない少数のアブラムシは手で払ったり、水で洗ったりする「根気のいる作業」と合わせることで、最強の武器は完成するのです。
■ 激闘は終わらない・・・
昔は、自然の食べ物こそが、副作用などない “天然の万能薬” でした。
日本のほとんどの農作物生産者は、農薬、肥料を定量投入する一般的な慣行農法を行っています。
翔栄ファームでは、固定種・在来種で、農薬・化学肥料を使わず、「ストチュウ」と「根気」でアブラムシと戦いつつ、”昔なつかしの季節の野菜”を群馬・茨城の3つの農場で、心を込めて育てています。