皆様、こんにちは。茨城県龍ヶ崎圃場の新人N.Sです。
入社し3か月ほど経過した今、野菜に対する思いや自然栽培の難しさ、心境の変化などをお話しようと思います。
■ 購入者から生産者に
私は農業経験がないゼロスタートなのですが、数年前にオーガニックについて知る機会がありました。
それからは翔栄ファームのような農家さんから無農薬野菜を定期購入したり、自然食品店に出向き調味料を買ったり、できる範囲で体にも環境にも気を付ける生活を送っていました。
関西から転居の都合で仕事を探していましたが、第一候補は“自然栽培農家”でした。
それまでは事務仕事や室内での勤務で体力仕事の経験はなく、少し不安はありました。
しかし、普段口にしているものの生産過程を体感し、購入する以外の形で何か自分に出来る事をしたい、そう感じていたからです。
通勤時間は車で約1時間と少し遠いですが、翔栄ファームの求人に飛びつきました。
■ 自然栽培は雑草との戦い
入社するまでは、自然栽培とはいっても農薬、化学肥料などを使用しないといった程度の知識しか持ち合わせていませんでした。
その中で始まった初日。
『マルチシート張り』『防草シート張り』という作業から始まりました。
機械は使用せずの体力仕事です。
ところで、まず、マルチシート?となったのは私だけでしょうか…
皆様ご存じかもしれませんが、正式名称は“マルチング”といいまして、畑の畝をビニールシートやポリエチレンフィルム、ワラなどで覆うことをいいます。
マルチシートのメリットとしましては、病気の予防など大きく分けて二つ。
一つは雑草予防で除草の手間を省くため、もう一つは作物へいくはずの栄養が、雑草に取られてしまうことを防ぐためです。
畝(うね)だけでなく、畝間にも“防草シート”を張り、とにかく作物を守っていきます。
ただ、翔栄ファームでは、やみくもに使うのではなく、マルチシートも防草シートも必要最低限の使用量にとどめ、自分たちの技術力で野菜の生育を促進できるようにしています。
中にはマルチシートや防草シートを張らずに、防虫ネットのみで育てる野菜もたくさんあります。
その際は、カマや刈り払機(かりばらいき)での作業になります。
この“刈り払機”も初めての体験でした。
これまでは道端や公園の管理をしてくださっている方が、使用している姿は見かけたことがある程度。
実際ベルトを掛けてみると、かなりの重量感で肩への負担も大きく、事故も多い機械なので緊張もあり神経を使う作業でした。
刈り払機は、草がひざ下くらいの高さになってしまった圃場(農作物を栽培するための場所のこと。農場)や、圃場周りの道端などで活用します。
いずれの作業も夏場の強い日差しの中で、夏場は30分外にいるだけで何もしなくても、体力が奪われていきます。
これまで事務仕事が中心だった私は、このような体力作業はまだ慣れません。
■ 宅配ラインナップに日々頭はフル回転
初日以降、収穫と出荷作業にも関わり、“虫食い”の被害についても自然栽培の現実を目の当たりにしました。
虫たちも生きるための食事だとは重々理解しているのですが、虫たちに食べられた野菜を見ると、
旬の野菜をもっと沢山の方に食べてもらえるはずだったのに…
という気持ちは捨てきれません。
さらに虫食いにあったせいで、その野菜が提供できない分、宅配のラインナップをどう組み替えよう…などと、悩みはつきません。
皆様の元へお野菜をお届けするために、日々作物と向き合っている中での大きな被害には、どうしても圃場メンバーは頭を抱えます。
翔栄ファームは、茨城県、群馬県、岐阜県で分散して栽培しており、各農場の気候に差があります。
そのため、同じ種類の野菜でも、旬の時期をずらしての出荷が可能です。
しかし、1か所の圃場で虫の被害にあった作物は、他の圃場でも同様な被害が出てしまうのも良くあること。
3圃場での連携によって、宅配ラインナップは日々組み替えられるのですが、頭の中はフル回転状態が続きます。
■ 少しずつ身近になってきた安全な食べ物
苦悩ばかりをお話ししてしまいましたが、やりがいや楽しさももちろん感じています。
ただ、現実を目の当たりにすると、一概に農薬や除草剤などを使用することが“悪”ではないとも思います。
そうなる経緯や苦労があって、時間や体力、お金などの問題が複雑に絡み合っているのだなと感じました。
日本は他の先進国に比べて、圧倒的にオーガニックの普及が遅れていますが、安心で安全なものを口にしたくない!という方はいないのではないでしょうか。
ただ自然栽培野菜の価格設定が高いことや、調味料などに関しても身近なスーパーでは手に入らないことは大きな壁ではあります。
私自身も安心安全なものを体に入れる事の大切さを知った後も、少し遠くまで足を運ぶか、ネットで購入するのが主で、その日その時の購入は難しく困ることもありました。
ようやくここ最近は、有機栽培・オーガニック商品を購入することが世間に認知され広まってきたと感じています。
数年前よりも身近なスーパーで、無農薬・有機野菜コーナーが普及していたり、オーガニックのプライベートブランド商品を目にする事が多くなってきています。
また農薬や化学肥料を使用しない農業が広まることは、自然環境にも深く関りがあり、巡り巡って自分の飲む水や吸う空気、子どもたちの未来に繋がっていると思うと嬉しく思います。
■ 最後に
偉そうなことを言ってきましたが、まだ農家として駆け出しの私なので、これからも沢山の気付きがあるかと思います。
今まで食事の際には『いただきます』とは言っても、本当の感謝はできていませんでした。
自分で実際に農作業をしてみて、いかに自分が食材を当たり前のように口にしてきたかが浮き彫りになりました。
どんな物事も自分が体感することの大切さを自然界の中で教わっている気がします。
自然栽培を応援してくださる方やオーガニック業界を支えてくださっている方、また翔栄ファームのお野菜や商品を購入してくださっている皆様、この場をお借りして感謝申し上げます。
ありがとうございます。
これからも自然栽培農家として、一人前になれるよう、精一杯努力して参ります。