最近「ヴィーガン(ビーガン)」
という言葉をよく聞くようになりました。
言葉自体は少なくとも70年以上前から
存在するものではありますが、
日本において「知る人ぞ知るレベル」で
流通し始めたのはここ15年くらいの
話かもしれません。
■ ヴィーガンってどんな人たちのこと?
ところで、
「ヴィーガン」という言葉を聞いて
どのような印象を持たれるでしょうか。
あるいはどのような人たちなのか、
と思われるでしょうか?
恐らくですが、一般的には
ストイックで健康意識がものすごく高く、
思想的、または宗教的というイメージが
あるのではないでしょうか。
まあ簡潔にいうとニッチな人たち。
そういう認識があるように思います。
しかし、今すでに社会現象化している
「ヴィーガン」とは、現代の社会問題をえぐる
地球全体に対する強力なメッセージ
であることを知る必要があります。
一つの象徴的なエピソードがあります。
2020年のアカデミー賞のレセプション、
前夜祭や本番当日のランチ、ディナーなど、
この大イベントのすべての食事で
提供されたものはヴィーガン料理でした。
世界の多様性を持った多くの人が集まる
華やかなイベントでなぜ?
一体、ヴィーガン料理を
提供する意図は何なのでしょうか?
そもそもアカデミー賞は世界映画の祭典。
換言すれば映画という総合芸術、カルチャーの
情報発信装置としての機能を持っていて、
世界中の注目を浴びるまさにお祭りです。
今回この大イベントでヴィーガンに込めて
発信したメッセージは「環境問題」です。
敢えて「込めた」という言葉を使いましたが、
実はヴィーガンと環境問題は密接に結びついていて、
この関係性を理解しないとヴィーガンの意味は
まったく分からないのです。
しかしこの説明に入る前に、
先ずは、ヴェジタリアンって何?
という説明から始めます。
■ 知っているようで知らないヴェジタリアン
我々はヴェジタリアンという言葉には
比較的馴染みがあります。
イメージとしては肉を食べずに
野菜を食べる人たち。
恐らくこんな感じだろうと思います。
あらかたその通りなのですが、
実は完全なる菜食主義者のことを
ヴェジタリアンとは言わないようです。
そしてこれが正に
ヴィーガンの表の顔なのです。
ではヴェジタリアンとは何者なのか?
まず、4つの段階的種類があります。
1段階目は「ラクト・ヴェジタリアン」。
この人たちは野菜の他、乳製品(牛乳、チーズ、バター、ヨーグルト等)を食べます。
2段階目は「ラクト・オボ・ヴェジタリアン」。
ここに分類される人たちは、野菜、乳製品の他に卵を食べる人たちです。マクロビオティックはここに近いかもしれません。
3段階目は「ペスコ・ヴェジタリアン」。
野菜、乳製品、卵の他に魚介を食べます。世界(特にアメリカ)のヴェジタリアンで最も多いのはこのペスコ・ヴェジタリアンだと言われています。
4段階目は「ポーヨー・ヴェジタリアン」。
この人達は、もはやヴェジタリアンという言葉のイメージには似つかわしくなく、野菜、乳製品、卵、魚介の他に鶏肉を食べるグループです。身の回りもたまにいると思うのですが、いわゆる「4つ足の動物は食べない」人たちです。
この時点ではっきりしていることは、
●ヴェジタリアンは野菜以外も食べる
●ヴィーガンは野菜しか食べない
ということです。
■ 現代におけるヴィーガンの人たちの主張とは
言葉の誕生という点では、
ヴェジタリアンが先で、
1847年のイギリスで発足した
「英国ヴェジタリアン協会」に端を発します。
これはキリスト教の団体で、
「Vegetus(ヴェジタス)」という
ラテン語から命名されました。
Vegetusの意味は
「健康で生き生きと生きる。健康志向」
というものだそうです。その約100年後に、
ヴェジタリアン協会から分派する形で、
英国ヴィーガン協会が発足(1944年)。
しかし、これらの言葉の成立と
現代におけるヴィーガンの意味合いには
異なる点があります。
ということで、本題に戻ります。
先ほど「ヴィーガンと環境問題は
密接に結びついている」と申しましたが、
ここがまさに“意味合いの異なる点”なのです。
ヴィーガンの主張はこうです。
「乳と卵を取り除く」
つまり畜産を否定的に捉えています。
えっ、どういうこと?
という感じではないでしょうか。
■ ヴィーガンと環境問題
現代の畜産にはある意味で
ダークサイドな面もあるようです。
例えば、牛肉を考えてみても、
今や世界一の牛肉輸出国はブラジルです。
ハンバーガーの国アメリカでさえ
牛肉はブラジルから輸入しています。
中南米には広大な森林(アマゾン)がありますが、
すでに日本の国土をゆうに超える面積が
伐採や火災で消失している事実があります。
またコスタリカの原生林も同様に
広大な面積が消失しています。
驚くことに、伐採された土地の
約70%が放牧地へと転換されています。
当然、伐採による森林消失は、
温暖化にも大きな影響を与えています。
更に、この膨大な数の牛の飼育すなわち
畜産がもたらすCO2排出量は何と全体の18%。
牛が反芻する際に放出される
“げっぷ”に含まれるメタンガス、
また糞に含まれる亜酸化窒素をはじめ、
膨大な飼料を運び込むための
輸送機が排出するCO2。
これらが環境破壊の大きな要因である
温室効果ガス排出の18%を
生み出しているというのです。
にわかに信じがたい話ではありますが、
因みに自動車産業の排出量が13%ですから、
この畜産がどれだけ環境破壊に
加担しているかが分かると思います。
また、世界の飢餓は8億2千万人。
世界人口が約78億人なので約10%強です。
これだけ環境を破壊するほど
膨大に食肉を生産しているにもかかわらず、
なぜこれだけ多くの飢餓が
世界には存在するのでしょうか。
ここで非常にショッキングなお話を。
世界の穀物生産量は約26億トン。
これは「世界の全ての人」に対して、
日本人1人が年間で食べる穀物量の
2倍を供給できる量に相当します。
つまり本来は世界に飢餓が
起こるはずはないのです。
にもかかわらず?
もうお分かりだと思います。
これらの穀物の供給先は「牛の飼料」です。
そしてこの牛肉は豊かな生活を送る
人々のもとに届けられていくのです。
先ほどヴィーガンの主張は
「乳と卵を取り除く」であると書きました。
そして「ヴィーガンと環境問題は
密接に結びついている」と書きました。
アカデミー賞会場における
ヴィーガン料理のメッセージが
お分かりいただけたと思います。
だからヴィーガンの人たちは
野菜・穀類だけを食べるのです。
最近「ヴィーガン(ビーガン)」という言葉をよく聞くようになりました。言葉自体は少なくとも70年以上前から存在するものではありますが、日本において「知る人ぞ知るレベル」で流通し始めたのはここ15年くらいの話かもしれません。
■ ヴィーガンってどんな人たちのこと?
ところで、「ヴィーガン」という言葉を聞いてどのような印象を持たれるでしょうか。あるいはどのような人たちなのか、と思われるでしょうか?
恐らくですが、一般的にはストイックで健康意識がものすごく高く、思想的、または宗教的というイメージがあるのではないでしょうか。まあ簡潔にいうとニッチな人たち。そういう認識があるように思います。
しかし、今すでに社会現象化している「ヴィーガン」とは、現代の社会問題をえぐる地球全体に対する強力なメッセージであることを知る必要があります。
一つの象徴的なエピソードがあります。
2020年のアカデミー賞のレセプション、前夜祭や本番当日のランチ、ディナーなど、この大イベントのすべての食事で提供されたものはヴィーガン料理でした。
世界の多様性を持った多くの人が集まる華やかなイベントでなぜ?
一体、ヴィーガン料理を提供する意図は何なのでしょうか?
そもそもアカデミー賞は世界映画の祭典。換言すれば映画という総合芸術、カルチャーの情報発信装置としての機能を持っていて、世界中の注目を浴びるまさにお祭りです。
今回この大イベントでヴィーガンに込めて発信したメッセージは「環境問題」です。敢えて「込めた」という言葉を使いましたが、実はヴィーガンと環境問題は密接に結びついていて、この関係性を理解しないとヴィーガンの意味はまったく分からないのです。
しかしこの説明に入る前に、先ずは、ヴェジタリアンって何? という説明から始めます。
■ 知っているようで知らないヴェジタリアン
我々はヴェジタリアンという言葉には比較的馴染みがあります。イメージとしては肉を食べずに野菜を食べる人たち。恐らくこんな感じだろうと思います。あらかたその通りなのですが、実は完全なる菜食主義者のことをヴェジタリアンとは言わないようです。そしてこれが正にヴィーガンの表の顔なのです。
ではヴェジタリアンとは何者なのか?
まず、4つの段階的種類があります。
1段階目は「ラクト・ヴェジタリアン」。
この人たちは野菜の他、乳製品(牛乳、チーズ、バター、ヨーグルト等)を食べます。
2段階目は「ラクト・オボ・ヴェジタリアン」。
ここに分類される人たちは、野菜、乳製品の他に卵を食べる人たちです。マクロビオティックはここに近いかもしれません。
3段階目は「ペスコ・ヴェジタリアン」。
野菜、乳製品、卵の他に魚介を食べます。世界(特にアメリカ)のヴェジタリアンで最も多いのはこのペスコ・ヴェジタリアンだと言われています。
4段階目は「ポーヨー・ヴェジタリアン」。
この人達は、もはやヴェジタリアンという言葉のイメージには似つかわしくなく、野菜、乳製品、卵、魚介の他に鶏肉を食べるグループです。身の回りもたまにいると思うのですが、いわゆる「4つ足の動物は食べない」人たちです。
この時点ではっきりしていることは、
●ヴェジタリアンは野菜以外も食べる
●ヴィーガンは野菜しか食べない
ということです。
■ 現代におけるヴィーガンの人たちの主張とは
言葉の誕生という点では、ヴェジタリアンが先で、1847年のイギリスで発足した「英国ヴェジタリアン協会」に端を発します。これはキリスト教の団体で、「Vegetus(ヴェジタス)」というラテン語から命名されました。
Vegetusの意味は「健康で生き生きと生きる。健康志向」というものだそうです。その約100年後に、ヴェジタリアン協会から分派する形で、英国ヴィーガン協会が発足(1944年)。
しかし、これらの言葉の成立と現代におけるヴィーガンの意味合いには異なる点があります。
ということで、本題に戻ります。
先ほど「ヴィーガンと環境問題は密接に結びついている」と申しましたが、ここがまさに“意味合いの異なる点”なのです。
ヴィーガンの主張はこうです。
「乳と卵を取り除く」
つまり畜産を否定的に捉えています。
えっ、どういうこと? という感じではないでしょうか。
■ ヴィーガンと環境問題
現代の畜産にはある意味でダークサイドな面もあるようです。
例えば、牛肉を考えてみても、今や世界一の牛肉輸出国はブラジルです。ハンバーガーの国アメリカでさえ牛肉はブラジルから輸入しています。中南米には広大な森林(アマゾン)がありますが、すでに日本の国土をゆうに超える面積が伐採や火災で消失している事実があります。またコスタリカの原生林も同様に広大な面積が消失しています。驚くことに、伐採された土地の約70%が放牧地へと転換されています。当然、伐採による森林消失は、温暖化にも大きな影響を与えています。
更に、この膨大な数の牛の飼育すなわち畜産がもたらすCO2排出量は何と全体の18%。牛が反芻する際に放出される“げっぷ”に含まれるメタンガス、また糞に含まれる亜酸化窒素をはじめ、膨大な飼料を運び込むための輸送機が排出するCO2。これらが環境破壊の大きな要因である温室効果ガス排出の18%を生み出しているというのです。
にわかに信じがたい話ではありますが、因みに自動車産業の排出量が13%ですから、この畜産がどれだけ環境破壊に加担しているかが分かると思います。
また、世界の飢餓は8億2千万人。世界人口が約78億人なので約10%強です。これだけ環境を破壊するほど膨大に食肉を生産しているにもかかわらず、なぜこれだけ多くの飢餓が世界には存在するのでしょうか。
ここで非常にショッキングなお話を。世界の穀物生産量は約26億トン。これは「世界の全ての人」に対して、日本人1人が年間で食べる穀物量の2倍を供給できる量に相当します。つまり本来は世界に飢餓が起こるはずはないのです。
にもかかわらず?
もうお分かりだと思います。
これらの穀物の供給先は「牛の飼料」です。そしてこの牛肉は豊かな生活を送る人々のもとに届けられていくのです。先ほどヴィーガンの主張は「乳と卵を取り除く」であると書きました。そして「ヴィーガンと環境問題は密接に結びついている」と書きました。
アカデミー賞会場におけるヴィーガン料理のメッセージがお分かりいただけたと思います。
だからヴィーガンの人たちは野菜・穀類だけを食べるのです。
参照資料
「完全菜食があなたと地球を救う ヴィーガン」 垣本 充 (著), 大谷 ゆみこ (著)